Column2 「潮時」の使い方に賛否?

 今回は「潮時しおどき」の使い方を取り上げてみようと思います。


     ☆


 間違えやすい日本語関連のことをネットで検索したときのこと。

 偶然にも、「『潮時』を誤って使っている人がいる」という文章を見かけました。これに関する記事は複数あり、中には有名な雑誌のWebサイトでも取り上げられていたこともあって、私も「え、そうなの?」と思ってしまいました。


 それぞれのサイトで書かれていたことは、「『潮時』を『やめるのに適切な時期』『引き際』というふうに使うことは誤り」というもの。

 確かに「潮時」には「ちょうどいい時期。チャンス」(『三省堂国語辞典 第八版』より引用)という意味がありますから、「やめるのに適切な時期」や「引き際」と使うと不適切のように感じるかもしれません。


 しかし辞書で調べてみると、あながちそうではないのです。


 まず『明鏡国語辞典 第三版』を調べてみると、「❷あることをするのにちょうどよい時期」とあって、そのあとに「そろそろ引退の潮時だ」という例文が書いてあります。ここから、『明鏡国語辞典 第三版』が「やめるのに適切な時期」としても「潮時」が使えることを示しているのが分かります。


 次に『新明解国語辞典 第八版』を見てみましょう。

 すると「㊁物事を始める(終える)のに適した時」とあります。ここにも「始める」ことだけでなく、「終える」ときのことが書いてあるため、『新明解国語辞典 第八版』でも「やめるのに適切な時期」としても「潮時」が使えることを示しているのが分かります。


 さらに『三省堂国語辞典 第八版』を見てみましょう。

 すると「②ちょうどいい時期。チャンス」「③特に、やめるのにちょうどいい時期」とあります。そして注意書きには「現在は③の用法が増えたが、昔からある②の用法の一部であり、かけはなれた用法ではない」とあります。

 つまり、『三省堂国語辞典 第八版』は「やめるのに適切な時期」として「潮時」を使うことは、元々の用法からの一部であるため、「間違いではない」と言っているわけです。


 他にも『旺文社国語辞典 第十二版』『デジタル大辞泉』『大辞林4.0』『精選版日本国語大辞典』『三省堂現代新国語辞典 第七版』『学研現代新国語辞典 改訂第六版』『岩波国語辞典 第八版』を見てみましたが、どれも「何かをするときにちょうどよい時期」というような語釈が書かれており、それは言い換えれば「始まりの時期」も「終わりの時期」も包括していると感じました。

 

 つまり、「『潮時』を『やめるのに適切な時期』『引き際』というふうに使うこと」はそもそも何も問題のない使い方だったわけです。

 では、どうしてこのように「間違い」などと言われるようになってしまったのでしょうか。


 毎日新聞の「毎日ことばplus」の『「潮時」は「やめる時」に使うのが普通に』というコラムには、「2012年度の文化庁『国語に関する世論調査』で、『潮時』の使い方について『ちょうどいい時期』か『ものごとの終わり』かという選択肢を挙げて聞いていたことが影響しているかもしれません」というようなことが記載されていました。


 調べてみたところ、平成24年度(2012年度)に文化庁が「国語に関する世論調査」で「潮時」を本来の意味である「ちょうどいい時期」、本来の意味ではない「ものごとの終わり」というように二つの意味にして調査をしていたようでした。


 確かにこのように尋ねられたら「『ものごとの終わり』として『潮時』を使うのは違うのかも」と思ってしまうかもしれませんね。


 一応、文化庁の調査について擁護ようごしますと、「ものごとの終わり」が本来の意味ではないというのも分からないではありません。


 何故かといえば、「潮時」は上記にある通り「あることをするのにちょうどよい時期」(『明鏡国語辞典 第三版』より引用)という意味なのです。

 要するに、「ものごとの始まり」「ものごとの終わり」とどちらか一方の意味がかたよっているわけではないということですね。


 ですから「ものごとの終わり」という意味でのみとらえているのだとしたら「本来の意味ではないですよ」ということをこの調査では言うのも分からないでもない、とだけ申しておきます。ただ、誤解はされますよね……(笑)


 ネットは色々調べられて便利ですが、このように辞書とは違う見解を提示している場合もあります。使う場合は、信頼できるかどうかの判断をする必要があるなと、改めて思った案件でした。


 以上、「潮時」に関するお話でした。

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