Column1 「御の字」の本来の意味

 今回は「御の字」の意味について取り上げようと思います。


     ☆


 「御の字」というと、次のような使い方を見かけることがあると思います。


 ——この仕事で一万円ももらえば御の字だ。


 上記の例文のような場合、皆さんはどちらの意味で捉えるでしょうか。


 ①この仕事で一万円ももらえば、「とりあえず納得できる」。

 ②この仕事で一万円ももらえれば、「大いにありがたい」。


 ①で捉えている方もいらっしゃいますが、本来は②が「御の字」の本来の意味です。辞書で意味を見てみましょう。


**********

【御の字】『明鏡国語辞典 第三版』

 大いにありがたい。

**********


 このように書いてあります。


 しかし文化庁が平成三十年度に調査したところによると、「御の字」を「大いにありがたい」(本来の意味)として捉えている人たちが36.6%に対して、「一応、納得できる」(本来の意味ではない)として捉えている人たちが49.9%となっているようです。

 ここから本来の意味を使う人よりも、そうでないほうを使う方が多いことが分かると思います。(『デジタル大辞泉』を参照)


 では、②のような使い方を認めている辞書はあるのでしょうか。下記に調べた内容を一覧にしてみました。


●「御の字」を「とりあえず納得できる」と捉えることを認めている辞書

 なし


●「御の字」を「とりあえず納得できる」と捉えることを俗語として認めている辞書

 なし


●「御の字」を「とりあえず納得できる」という意味として使われている事実があることがあると記載がある辞書

『大辞林4.0』


●「御の字」を「とりあえず納得できる」と捉えることを認めていない辞書

『明鏡国語辞典 第三版』(一冊)


●おそらく「御の字」を「とりあえず納得できる」として捉えることを認めていない辞書(⇒言及されていない・用例がないため)見出しがない

『新明解国語辞典 第八版』『三省堂国語辞典 第八版』『旺文社国語辞典 第十二版』『新選国語辞典 第十版』『三省堂現代新国語辞典 第七版』『学研 現代新国語辞典 改訂第六版』『岩波国語辞典 第八版』『デジタル大辞泉』『精選版 日本国語大辞典』(十冊)


 はっきりと「誤り」としているのは『明鏡国語辞典 第三版』のみでした。では、それ以外の辞書で「とりあえず納得できる」という意味を認めているものがあるかといえば、そうでもないことが分かります。

 辞書の意味を見る限り、「御の字」は「大いにありがたい」と使うのが無難といえそうですね。


 ちなみに「御の字」というのは、江戸時代の初期に遊里語から生まれた言葉です。

 そして、最新の版の辞書の中のなかでも「御の字」を俗語としてしている辞書もありました。辞書が「御の字」を俗語としている本当の事情は分かりませんが、あまり改まった文章や会話では使われないからかもしれませんね。


 この辺りの考え方は辞書によって違いますので、使う人にゆだねられる部分かと思いますが、400年以上経っている今でも俗語とされている辞書もあるという「御の字」は、言葉の変遷へんせんの不思議さを秘めているように思います。

 

 以上、「御の字」のお話でした。

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