【#10】推しの正体……?

「「かんぱーーーい♪」」


 乾杯の後、俺とティーシャは食事へと手を出していく。


「おいしぃ~~♪」


 ティーシャはピザを片手にブランデーを飲むゴキゲンなスタイルであり、こころなしか気が緩んだような笑顔で語り出す。


「あーあ、久々に飲んじゃった!! 普段は体型維持のために節制してるから滅多に飲まないんだけどぉ〜……今日はハメ外していっぱい飲んじゃちゃおっかな〜!?」


 :ええぞ!! ええぞー!!

 :酔ったティーシャ、あまりにも可愛すぎる……!!

 :そういや、ティーシャのお酒事情あんま知らないかも。強い方なの? 弱い方なの?


 その質問に対し、ティーシャは誇らしげに胸の下で腕組みしながら言う。


「ふふふ〜♪ 実はあたし、結構お酒には自信あるよぉー? ──そうだ、アヤカちゃ~~ん!! 一緒に飲み比べしようよ~~~? 果たして、ウワサの酒クズ女サムライがどれくらい飲めるのかさぁ~~!!」


 :おぉ!? いいねぇ~!!

 :もう酔い過ぎて草

 :酒クズちゃん、逃げないよなぁ!?


「わたしは構いませんけど……本当にやるんですね?」


「やーーるーーよーーー!! 女に二言はありませーーーーん!!」


 ……なるほど、もう完全にやる空気だな。ならば、しょうがない。その勝負、受けてたつ……!!


◇◆◇◆◇


 ──30分後。


「も、もう飲めないよぉ~~~!!」


 グルグル目を回しながらぶっ倒れるティーシャ。


「ピィ!! ピィ!!」


 そこへフワンちゃんが審判のように寄ってきて、ティーシャの前でブンブンと首を振った。もうどう見ても続行できる状態じゃない。


 この勝負、俺の勝ちだ。


 それから俺はティーシャの肩を支えながら、空いた方の手でビールをグビグビ飲みながら言った。


「実はわたし……【鋼の肝臓】といって無限にお酒を飲めるスキルを持っているんです♪」


「えぇ~~~!? アヤカちゃん、ずるい~~~~~!? そんなの聞いてにゃぁ……ふぁ……」


「──あらら、寝ちゃった」


 疲れがピークに来たのか、俺の肩の上でグッスリ寝るティーシャ。


 アルコールで真っ赤になった顔に、ペタンと垂れ下がった猫耳。まるで天使のような寝顔……いつまでも眺めてたいくらいに。……まぁ、流石に放置はしないが。


 俺は頭を横にフラフラさせつつ、撮影ドローンに向けてめの挨拶をした。


「えっとぉ~~、すいませぇ~~ん。ティーシャが眠ってしまったので今日の配信はこれで終わりで~~す。本日はありがとうございましたぁ~~~~。おやすみぃ~~~♪」


「ピィ~~~!!」


 俺の隣で手を振るフワンちゃん。すっかりマスコットだなぁ……。


 :乙

 :楽しかった!

 :酒クズちゃん、ティーシャの介抱たのんだよ~


《配信終了》 


 ◇◆◇◆◇


(さて、”もう一仕事”残ってるな……)


 配信終了後。ティーシャはまだ俺の背中で寝ていて、起きる気配がまったくなかった。


(早くベッドに運ばなきゃな……)


 仕方ない。ここはもうひと頑張りだ。それが終わったらシャワーでも浴びて、俺はクラフトで作ったソファで寝よう。


「あの、ティーシャ。ちょっとお身体動かしますよ?」


 俺は爆睡中のティーシャにそう言うと、彼女は「うぅ~~ん」と唸りながらこう返してきた。


「むにゃぁ~~♡ なんかいい匂いするぅ~~~♡ ゴシゴシ……」


「!?!?」


 く、くすぐったい!? ティーシャは夢でも見てるのか……まるで子猫のように身体を擦りつけてくる!! むしろいい匂いするのはそっちの方だよ!? 


 ヤバイ!! これはヤバすぎる……!!


(は、早く運ばないと~~~~!?)


 そうやって、焦ってティーシャを動かそうとした時だった。


「あっ」


 俺の腰にあった妖刀のさやが、ティーシャの身体にコツンと当たってしまった。それだけならまだ良かったが──。


 ──ボン!!


 その時、俺は信じられない光景を目の当たりにした。


 姿!?


「は……?」


 今のティーシャの姿は、今までとあまりにも違っていた。


 頭には小さな黒い二本角。メイド服の背中からは一対いっついのコウモリの翼。スカートの隙間からは先端せんたんハート型になった尻尾が……。


 明らかに作り物じゃない。それは正真正銘、彼女から生えているモノだ。それじゃ──。


(じゃあ、ティーシャは悪魔ってコト……?)


 いくら俺が大量の酒を飲んだとはいえ、流石に現実と想像の区別くらいはつく。これは本当に現実なのか──?


 そうして、一人でパニックになっていた時。


「……ん」


 ティーシャが目を開けた!! しかも、その瞳はいつもの青色ではなく……瞳孔が縦割れしたピンク色だ!!


 それから彼女は自分の身体を見下ろして、一気に青ざめた表情へと変わった。


「うそ!? なんで変身が解けてるの!?」


 大きく目を開けて叫ぶティーシャ。そして──。


「あっ……!」


 俺と目があった瞬間、まるで時間が止まったような沈黙に至る。その後、ティーシャは一言だけポツリとつぶやいた。


……?」

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