【#8】珍獣、ギガント・シマエナガ

 【渋谷ダンジョン・地下16階】


「……待って! アヤカちゃん!!」


 森の中を歩く道中、ティーシャの猫耳がピクッと動いた。そして、そのまま近くの木の後ろに隠れるよううながしてくる。


 俺はとりあえず指示に従うものの、小声で聞いてみる。


「ん? どうしました?」


「ヤバいよ!? アヤカちゃん……!! アレ見て!?」


 どうやら普通じゃない様子。


 ティーシャがヤバいと言ったもの。それは──。


「ピィ!! ピィ!!」


「な、なに~~!? あのデカいとりぃ~~~~!?」


 思わず(小声で)叫んでしまう俺。


 その鳥の体長は2メートル超え。その巨体は大福のように丸い体型をしていて、全身がフワフワモフモフの白い毛で覆われていた。


 たとえるなら、白いひよこがそのまま巨大化したようなヤツだった。当然配信でも見たこともないモンスター。


「なんなんですか、あの可愛いモンスターは……??」


「あれは……”ギガント・シマエナガ”だよ!!」


「ギガント・シマエナガ!?」


 :なにそれ?

 :ティーシャ、知っているのか!?

 :名前のインパクトすごいね

 :詳しく!!


 俺もリスナーも共に困惑している中、ティーシャはモンスターに視線を合わせたまま興奮した口調で話す。

 

「ギガント・シマエナガはね、あたし達の世界で”激レアモンスター”として語り継がれてる鳥類モンスターなの!! まさかダンジョンで遭遇できるなんて……!!」


 :マジか!!

 :そっか、ティーシャ出身の異世界とダンジョンって繋がってるもんな。だから、あのギガント・シマエナガちゃんも流れ着いてきた感じだ

 :にしても、運が良すぎる!! 今度はレアモンスターだなんて!!

 :↑それな。酒クズちゃんが配信に出る度に何か起こってる


「い、いやぁ~、それも偶然ですよぉ~!? アハハ……」


 とは言うものの、確かに立て続けに幸運が続いている。もはや怖いくらいに。……まぁ、考えてもしょうがないんだが。


 それよりも、今はギガント・シマエナガちゃんの方だ。隣ではティーシャがとろけた目であのモンスターを見ていた。


「うわぁ!! 見て、アヤカちゃん!! ウワサ通りのモフモフ感♡ 早く触りたくてたまんないよぉ~~~~♡」


「そうですね〜♡ あのモフモフに身を預けてお昼寝してみたいですよ〜♡」


 :どっちも興奮してて草

 :まぁ、確かにあの可愛いフォルムは女子なら夢中になるだろうね

 :でも、野生っしょ? 普通に考えたら近づくのも難しそうだよなぁ……


「むむむ……そうだね。できればあの子を刺激したくないし、どうしよっかな……?」


 真剣に考え込むような顔をするティーシャ。そんな感じで近づこうにも近づかない状況になっていた時だった。

 

「「「ガルルルル!!」」」


「「!!」」


 突然、どこからか響く獣の声。それから森が不吉な風に揺れて、直後に真っ黒な狼の"影"が現れた!!


「「「ガゥァーーーーーー!!」」」


「ピィ~~!?」


「あれは……シャドーウルフ!?」


 ティーシャがその名を呟くと、近くを飛ぶ撮影ドローン上にディスプレイで表示される。


【シャドーウルフ】


 影から生まれる闇の精霊。狼の姿を象っており、森を歩く旅人へ奇襲をかける。


「「「ガルルルル!!!!」」」


「ピィ〜〜〜〜!?」


 ギガント・シマエナガを取り囲むように、三匹のシャドーウルフが走ってくる。──そう、明らかに”ピンチ”ってヤツだ。


 そんな状況を前にして、ティーシャはこちらに目配せしてくる。


「……アヤカちゃん!! 助けるよ!!」「ハイ!!」


 迷う時間はなかった。俺達は同時に走り出し、戦いの舞台へと飛び込んでいく。


 ティーシャの合図ハンドサインを受けて、俺はシャドーウルフの方へと向かう。


 一方、ティーシャはギガント・シマエナガの近くに舞い降りる。

 

「シマエナガちゃん!! 今、あたしがまもってあげるからね!!」


「ピッ!?」


 ビックリしているシマエナガちゃんに対し、ティーシャはその身体に触れながら魔法を使う。


詠唱キャスト──【クイック・リフト】!!」


「「「ガルル!?」」」


 その瞬間、ティーシャとシマエナガちゃんが遠くに転移した。転移先はシャドーウルフの包囲圏外。


「よし……!!」


 今ティーシャが使ったのは短距離用の転移魔法。シマエナガちゃんを逃がすために使ったのだ。


 これで思いっきりやれる!!


「ティーシャ!! あとはお任せを〜!!」


 そして、彼女達が元々いた場所に俺が降りた。包囲していたシャドーウルフは目の前の俺へとターゲットを変えたようだ。


「「「ガルルルルーーーーー!!!!」」」


 走って襲いかかってくるシャドーウルフ達。


 そこで俺は残ったブランデーを一気に飲み干し、渾身の力を妖刀に込めた!! そして──。


「でやーーーーーーーーーー!!」


 抜刀しながら繰り出す、神速の回転斬り。その一撃はシャドーウルフ全員を同時に叩き斬った!!


「「「ガ……ゥ……!?」」」


 そして、シャドーウルフ達は消滅していった。


「ふぅ……」


 一安心して妖刀を再び納める俺の元へ、ティーシャが猫耳を嬉しそうに立てながら駆け寄ってくる。


「すごいよ、アヤカちゃん! あたしのサイン、よく分かったね!? 全然打ち合わせしてないのに!!」


「ふふっ、当然ですよぉ〜♪ ティーシャの配信はいつもチェックしてますから、そこから戦術を予測しました♪」


 :なるほどな

 :まさかファンである事が役に立つなんてな!!

 :もしかして、この二人相性バツグン……?


 さて、ひとまず問題解決。気になるのは例のシマエナガちゃんだが──。


「ピィ~~~!!」


「うわっ!? シマエナガちゃん!?」


 なんか俺の後ろについてきた!? 


 しかも、そのまま距離を取るとまた近くに寄ってくる。その様子を見て、ティーシャが嬉しそうに声を上げた。


「もしかして、アヤカちゃん!? その子になつかれてるんじゃない!?」


 :草

 :なんで酒クズちゃんに!?

 :同じ”珍獣”だから惹かれ合ってるとか?


「もぉ~~♪ 珍獣扱いしないでくださいよぉ~~♪」


「ピィ~~♪」


 俺にそっと身体を寄せてくるシマエナガちゃん。やっぱフワフワしてて気持ちいい……。


 そして、この子のつぶらな瞳を見ていると、どんどん可愛く思えてきてしまった。ただでさえ愛らしい見た目のギガント・シマエナガ。


(こんな可愛い子と過ごせたら幸せだろうなぁ……)


 よし!! 決めた!!


「この子、!!」


「おぉ~~~!? アヤカちゃん、本気ぃ!?」


 :こいつは面白くなってきた

 :でも、レアモンスターって飼って大丈夫なの?

 :↑ギルド条約によると保護する目的なら飼育してもいいらしい。当然売買は禁止だが

 :酒クズちゃんはフリールーム使えるもんな。飼う場所としてはちょうどいいか


 コメントがまた一気に盛り上がっていく中、ティーシャがシマエナガちゃんを撫でながら提案してくる。


「それじゃ、お名前つけてあげようよ!! この子にふさわしい名前をさ!!」


「う~~ん、そうですねぇ~……」


 俺はシマエナガちゃんを見つめながらしばし考えた。そして──。 


「フワフワしてるから”フワンちゃん”で!!」


 :おいおい、まんまだな……

 :でも、覚えやすいっちゃ覚えやすいかな

 :酒クズちゃん、フワンちゃんと一緒に暮らすのかぁ……!! どんどんにぎやかになっていくな!!


「えへへ~~♪ よろしくね〜、フワンちゃん~♡」


「ピィ~~♡」


 こうして、ギガント・シマエナガの”フワンちゃん”が仲間になった!

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