小数点以下数秒の戦いから

 タリスタさんが麻痺状態になった私を抱え上げて、PK達に背を向けて走り出す。

「…逃走中の始まりだね。【重力加速】」

「…リリィさんは」

「だから、分からないって…あの程度で死ぬような人じゃないと思ってはいるけど…」

 結局リリィさんの姿は確認できぬまま、私たちは先にある部屋へと逃げ込んだ。

「リリィさん…生きてると良いけど…」

「ですね…」

 あんな衝撃の攻撃を極至近距離で喰らった以上…恐らくリリィさんでも生存は絶望的。リリィさんも麻痺状態だったから、きっと避ける事もできなかったはずだ。

「………」

 悔しい。

 第一に出てきたのはその感情だった。もっと早く気付けていたら、もっと私が強ければ、自責と反省ばかりを繰り返しながら、麻痺状態の回復を待つ。

「…まぁ、来るとは分かっていたけど…」

「圧倒的に人数不利が過ぎませんか…?」

「そうなんだよなぁ…」

 いくらタリスタさんが強いとはいえ…、【模倣者デミウルゴス】が居る以上は対策のしようがないというのが現状、打破できるものならさっさと抜け出したい状況だ。

 リリィさんが居てくれたら…。

「…仕方ない、二人でできるところまでやってみよう」

「はい」

 …最悪、死んでも前哨基地に戻れる。

「足搔くだけなら…!」

 さっきと違って、ここは比較的広い。これくらいの広さだったら迅雷も神速迅雷も問題なく扱える。

「【刀剣術・迅雷】!」

 周囲の景色が途轍もない速さで流れていく。PKの一人に狙いを定めて、月夜深白端つくよのみしろぎを振り下ろし、PKの体を上下真っ二つに切り落とす。

「私も負けてられないね…!【聖剣術・偉大なる剣グレートブレード】!」

審判の剣ジャッジメント】の刀身が光を纏い肥大化する。流れ弾を避けるために疾風ハヤテを発動して、上空に飛び上がっておく。

「はぁっ!!!」

 光の剣がPK達を切り裂いた。そして、最後に私と同じく跳躍して【聖剣術・偉大なる剣グレートブレード】を避けたPKを効果時間が残っていた疾風ハヤテで切り裂いた。

 これでPKは全員壊滅…あとは…。

「―――トキハちゃん、来るよ!」

「はい!」

 鈍色の甲冑が目の前に唐突に表れる。転移…ではない、超スピードで移動したんだ。

 間一髪対応が間に合い、【模倣者デミウルゴス】の攻撃を月夜深白端つくよのみしろぎの刀身を滑り込ませるようにして防いだ。

「―――ぐっ…!」

 ただ、ダメージは防げたとしても衝撃まで防ぐことはできなかった。

 疾風ハヤテはクールタイム中、着地をする瞬間に減速ができなかった。結果として【模倣者デミウルゴス】がら距離を取ることには成功したが、これだと攻撃を当てるのに時間がかかりすぎる。

 もっと至近距離の攻撃ですら怪しいのに、こんな距離では防がれてしまうのが目に見えている。

「【刀剣術・神速迅雷】!」

模倣者デミウルゴス】に接近して、細かく方向転換をしながら、次の動きを予測させないようにする。

 より近く、より速く…、もっと…もっと…。…今!

「―――はぁぁぁっ!」

 【模倣者デミウルゴス】と平行に動いた状態から直角に体を方向転換させて、刀を前に突き出す。

 回避をした【模倣者デミウルゴス】だったが、本当にごくわずか、【模倣者デミウルゴス】の甲冑に刀が突き刺さった。

 効果時間は…あと2秒…。…着地までの時間が長い…!

「―――っ!」

 着地してごく僅かに減速した瞬間、【模倣者デミウルゴス】が刀を引き抜いて空中跳躍を発動した。

 刀を地面に食い込ませて、それを軸に右回転しながら急減速する。

「トキハちゃん!」

 すぐに対応してきた【模倣者デミウルゴス】の攻撃を刀で弾いた。

「―――あーらよっと」

 直後、部屋の壁をリリィさんが【模倣者デミウルゴス】の左手を切り飛ばした。

「…ぇ…?」

 唐突な出来事に、一瞬思考が止まる。口から出たのは素っ頓狂な声だけだった。

 今…リリィさん壁をすり抜けて…。

「二人とも大丈夫だった~?…あれ、お~い、二人とも~?」

「…ぇ…ぁ…だ、大丈夫、ですけど…」

「何、今の…」

 困惑、というか、状況が上手く呑み込めないというか…。

「まぁ、種明かしは後回して良いよね」

 手に握られていたのは、龍鱗剣ではないもう一つの剣、雷刃剣だった。

 雷刃剣を鞘に納めると、リリィさんが刀身がボロボロになった龍鱗剣を取り出した。

「いやはや…全く、龍鱗剣は二人の武器と違ってそんなに硬くないんだから、もうちょっと手加減して欲しいよねぇ~。自動修復も付いてないんだしさ~。…大丈夫、二人とも?」

 そう言ってリリィさんが後ろを振り返った瞬間、リリィさんの後ろに影が差した。

「リリィさん危ない!」

「―――【模倣者デミウルゴス】、悠長に君の相手をしていられるほど、今の私には手心はないよ」

 【模倣者デミウルゴス】の攻撃を軽くあしらい全て捌き切った後、【模倣者デミウルゴス】を蹴り飛ばした。

「【剣術・ソニックブレード】」

 リリィさんが壁に激突した【模倣者デミウルゴス】に追い打ちを仕掛ける。

 金属が軋む音を立てながら、【模倣者デミウルゴス】がリリィさんに反撃の拳を突き出す。

「ワンパターン。つまんないね、見飽きたよそれ」

 軽く【模倣者デミウルゴス】の拳を受け流し、一瞬だけ体勢を崩した【模倣者デミウルゴス】の胴体に向けて、ボロボロの龍鱗剣を突き立てた。

「―――【剣術・フレアブレード】」

 刀身は既にボロボロだったけれど、フレアブレードによって蒼白い炎を纏い、【模倣者デミウルゴス】の装甲を融かしていく。

 ―——【模倣者デミウルゴス】に龍鱗剣が貫通し、内部でバキン!とガラスが割れる音を鳴らした【模倣者デミウルゴス】が、その場に崩れ落ちた。


――――――――

作者's つぶやき:いやはや、やはりリリィさんは強いですね。【模倣者デミウルゴス】って動きを常に最適化しながら戦闘していくというのに、ワンパターンとかつまんないとか…これは強キャラですね、間違いない。

というか何なんですか、トキハさんもタリスタさんも全くもって歯が立たないような敵をたったこれだけで倒すとか、あとさらっと壁抜けしてるんじゃありませんよ…。

――――――――

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