第11話 犬も朋輩天使も朋輩
都市近郊の小さな町、台典市に存在する公立高校である台典商業高校には、一般的な高校と比べて、七不思議のようなゴシップじみた噂が多い。それは新入生である可憐で奔放な少女、
そうした流行が収まっていったのは、ひとえに後の生徒会副会長となる、当時は二年副会長だった
そんな彼女が出会ったのは、元気で天真爛漫な少女、
――ポメラニアンの毛皮をかぶったドーベルマン。
――人懐こいマルチーズ。
神城がその少女について、聞き込みをしてみたところ、一年の生徒たちは口々に印象の異なる感想を述べた。それにしてもどうして犬種で例えるのか、と一瞬悩んで、すぐに彼女の下の名前、壱子をもじったワンコというあだ名が原因だと理解する。
そうして、三峰と接触した神城は、三度断られた後になんとか生徒会に引き入れた。熱烈な神城の持ち上げと、三峰自身の人気もあり、選挙は難なく当選し副会長として神城の後を継ぐことになった。
生徒会執行部は、そんな経緯の後、神城を降した新生徒会長
「これ、また天使ちゃんって子のやつね」
放課後、生徒会執行部の四人は、生徒たちの悩みを匿名に投書できる目安箱の中身を、一枚ずつ精査していた。この学校の生徒は、素直というか直情的で行動力が高い傾向にあり、投書は手に余るほど寄せられていた。
「
亜熊は面倒そうに言うと、別の書類仕事に取り掛かり始めた。
「一年生の合宿が終わってから、また増えましたね。ほとんどが聖地をどうにかしてほしいとか、恋路を邪魔されたとかですから優先度は低い気もしますが……」
「とはいえ、放っておくのも良くないぞ。実際、悩んでいるから送ってきたわけだしな」
三峰はそう言いつつもやはり面倒そうに、うなじを掻きながら困り顔をする。涼し気に切りそろえられた髪が軽く持ち上がる。
「それもそうか……入学式のときは、少なくとも問題を起こしそうな生徒には見えなかったがな。丸背、君には、天使という生徒はどう映った?」
亜熊は資料を書き進めつつ、書記である
「悪い子ではなかったと思います。投書もさっき言った通り、彼女自身が何かしたというよりも、二次被害というか、やけに持ち上げられている側面が大きいように感じますね。実際私も、クラスで彼女の噂はよく耳にしますし」
椅子から中腰で立ち上がり、また一枚天使の投書を机の真ん中に振り分けた。席に腰を落ち着けてから、クイと丸眼鏡を上げる。
「噂、か。こればかりは生徒たちの興味が薄れていくのを待つしかない。が、静観しているわけにも行かない。とはいえ、俺と丸背は文化祭と生徒総会の準備で手いっぱいだし――」
亜熊はそう言って手を止めると、顔を上げて残りの二人を交互に見た。迷うように視線を中空に浮かべて、ボールペンを片手で遊ばせる。
「——三峰、天使の件はいったん任せてもいいか?とりあえずは、情報収集と噂の真偽確認から頼みたい」
そう言い残して、亜熊は再び作業に戻っていく。ミスや手抜きの多い提出書類に朱を入れていく。
「ちょっと、そこは私じゃないの?」不満そうに頬杖をついて、神城が言う。
「
自信気にビシッと親指を立てた三峰に、亜熊は優しくほほ笑んだ。
「か・み・い・じょ・う先輩と呼びなさい。まぁ、私よりあなたの方が得意そうなのは否定しないわ。私もクラス発表の準備があるから手を回せるか分からないけど、何かあったら頼りなさいよ」
「お気遣い痛み入ります」
三峰が大げさに手を合わせて頭を下げると、一七時を知らせるチャイムが鳴り始めた。
「おっと、それじゃあチビ共の世話があるから、お先に失礼するぞ」
光峰が荷物をまとめて席を立つと、三人は慣れたように片手間に手を振った。
学校を後にした三峰は駅まで下ると、高校とは反対方向に十分ほど歩いた所にある小学校へと向かう。迷いなく校門をくぐり、グラウンドを横断して校舎の横手を回り、非常階段を上った。
二階の非常口を開けると、見知った老年の職員がお辞儀する。
「あら、壱子ちゃん。今日もご苦労様。
「いえいえ、こちらこそいつもご迷惑をおかけしてます」
三峰が軽くお辞儀をして返すと、老女はとんでもないと言った風に手を横に振る。
「
世辞じみた褒め言葉に、三峰は苦笑いを返す。学童保育のために貸し出された教室から、慌てたようにスポーツ刈りの男子児童が飛び出してきて、乱雑に靴箱から上履きを取り出すと、姉のいる非常口とは反対の方向に走っていってしまった。
「まったく、どこがお兄さんなんだか……失礼します、今日もありがとうございました」
頭をポリポリとかいて、それから深くお辞儀をして、三峰は非常口を抜けた。児童玄関の前でしばらく待っていると、どたどたと騒がしい足音が降りてくる。子供用に合わせられた低めのベンチから立ち上がり、扉の向こうの男児に声をかける。
「帰るぞ~」
返事の代わりに、勢いよく飛び出してきた。
「あっやべ、傘忘れた」
かと思うと、再び玄関の方へと戻っていき、今度はしおしおと黒い傘を抱えて戻ってきた。
「優二お前、別に今日雨予報でもなかったろ。何で傘持ってきてるんだ?」
「ちげーよ。一昨日持って帰り忘れたから、置いてただけだよ」
二人はまだ日の高い帰り道を揃って帰る。壱子は通学かばんを片手で肩の後ろに提げて、ゆっくりと大股で歩く。学校の駐車場から車が出ていって、商店街の方へと走り去っていった。あの車もまた、学童保育の家族だろうか。
「ねーちゃん、土曜さ。俺『ほがらか』行ってもいいかな?」
『ほがらか』というのは、優二の預けられている学童保育の名前である。主に台典小学校の低学年児童を対象とした放課後保育のサービスで、両親が共働きの子どもや様々な事情により放課後に家で一人になってしまう子供を対象に、宿題の指導や指導員との遊戯を通して、社会性の育成や家庭教育の代替としての礼儀の指導などを行っている。と書類上は書かれているが、実際は宿題を終えたら自由に遊ばせており、公民館や児童館と似たような機能の方が強い。優二は二年次から平日のみの利用を始め、壱子が生徒会の仕事を終えて迎えに行くまでの時間を過ごしている。
「土曜だったら、父さんも家にいるだろ。私もいるし、寂しいならママのところにでも行くか?」
「ち、ちがくてさ。その、土曜日も遊ぼうって約束しちゃって、だから、ダメかな」
優二は、姉の機嫌をうかがうようにランドセルの肩ベルトをきゅっと握り、カチャカチャとナスカンを指でいじった。
「なんだ、友達と約束したのか。それなら明日にでも学校で遊べばいいんじゃないのか?別に、わざわざ土曜に行かなくってもさぁ」
壱子が諭すように言うと、優二は立ち止まり恥ずかしそうにつぶやく。
「そう、じゃなくってさ。友達じゃなくて、先生なんだけど、その人が次来るの土曜だから、だから」
言いながらとぼとぼと歩き始めた弟のランドセルの持ち手を、空いた手で姉が引っ張った。しばし信号に止められる。
「まぁ、それはいいけどさ。来年、辞めたくないとか言うなよ。私も来年は受験だし、
姉が手を離すと、ランドセルの重みで優二はぐぇと間抜けな声を出す。青に変わった横断歩道を、姉はさっさと歩き始めた。
「分かった……ありがと」
弟も、小走りでその後を追いかけて、小さく礼を言う。
「四年生になったら、『ほがらか』行かなくなっちゃうから、今のうちに遊んどきたかったんだよ。
「……なんだって?」
優二のぼそりとした呟きに、今度は壱子が間の抜けた声を出す。
駅の近くにある幼稚園に到着した二人は、一時会話を中断して妹の川里を預かる。
「——だから、天使ちゃんだよ。今年から時々来てくれてるアルバイトの人で、さっきもいただろ?」
「いや、知らないって。そんな話してたか?」
「平日はあんまり来ないから、俺も会うのは今日初めてで、それでまた遊ぼうねって」
壱子は困ったように額をかく。まさか、な。
「お姉ちゃんたち、どこか遊びに行くの?」
電車の揺れを耐えるように姉の脚にしがみついて、川里は姉を見上げた。
「ん?ああ、そうそう、土曜日は父さんと二人で留守番な」
川里は、やだやだお姉ちゃんがいいと太ももをぎゅっと抱いた。壱子は優しくほほ笑みながら、はいはいと頭を撫でる。
「なに、姉ちゃんも来るの?」
「気が変わった。父さんに送ってもらおうと思ってたけど、私も見に行くよ。というか、言えよな。そんな面白そうな人がいるならさ」
「だから、俺も今日初めて会ったんだって」
長いブレーキ音の後、電車は止まり、壱子は妹の手を引いて降車した。
――天使ちゃん。生徒会で噂になっている台典商高の生徒と同じであるかは分からないが、そうそうこの狭い世界で呼び名が被ることもないだろう。たった一回の保育で弟と約束を取り付けるほどの行動力、学園で常に問題の中心にいる少女ならばやりかねないだろう。
思わない運命に、壱子は楽しそうに笑う。怪訝な目で姉を見上げた弟に、何でもないとごまかして、三人は家へと帰っていった。
時は過ぎ、土曜日。壱子は弟を連れ、『ほがらか』にやってきた。平日のうちに、優二を連れていく旨を本職員の老女に伝えると、いつでも大歓迎よ、と返答された。
動きやすい運動靴と淡い色のジョガーパンツを履いて、万が一にも子供たちと遊ぶことになった場合に備える。半袖で外に出ようとしたが、三寒四温というべきか、まだ少し肌寒い外気に薄めのジャケットを羽織らざるをえない。これならいっそ、上下ジャージでもよかったかもしれない。
非常口の前でジャケットを手に抱え、弟に先に入るように促す。『ほがらか』の職員が教室から顔を出し、おはようございますと笑いかけてくれる。
「おはようございます。すみません、今日は急にお邪魔してしまって」
靴下のまま、教室にまだらに敷かれたタイルカーペットへ上がる。やはり休日は児童の数も少なくなるのか、教室には五・六人の児童がまばらに思い思いの活動をしていた。
優二は、と行き先を目で追うと、教室の隅に置かれた職員用の机に出席ノートを提出した後、机を拭いている女の子の方へと向かっていく。
スラックスに薄手のパーカーを羽織ったその少女は、弟が話しかけると顔を上げ、花が咲くような笑みを浮かべる。人との交流には慣れているのだろう、表情の変化が豊かで、見ているこちらまで心をほぐされるように感じる。もちろんそれは、むしろ嫉妬を感じさせないほど整った、顔立ちの美しさにもよるのだろう。家でもあまり見ることのない弟の嬉しそうな表情に、姉として少しだけジェラシーを感じてしまう。
「今日も送り迎えだけなのかしら。良かったら、ゆっくりしていってくださいね」
「ありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。なにかお手伝いできることがあれば、任せてください。せっかくですし、弟が普段どんなところで過ごしているのか知りたいので」
「あら、助かるわぁ。もう今日は
まずは天使と思われる少女に接触を図ろうと思って一歩踏み出した壱子は、その言葉に足を止める。それはどう言う意味で、と聞くために振り返ろうとすると、教室の外から騒がしい子供たちの声が聞こえてくる。
一人二人、檻から放たれた猛獣のように子供たちがやってくる。十人二十人、職員にぺこぺこと頭を下げながらやってくる親子の数が、どんどんと増えていく。壱子は足をすくわれないように気を付けながら、子供の進路をふさがないように壁際に移動する。子供たちは我先にとランドセルから出席ノートを机に提出すると、一人の少女の周りに集まっていく。
「「「「「「天使ちゃん、あーそぼ!!」」」」」」
「ぐわぁ~、ちぎれる~」
天使と呼ばれたその少女は、童子童女に両手足を引っ張られ、ダ・ヴィンチの人体図のように大の字に拘束されてしまっていた。
「九時までは、読書の時間だよ~」
すべての文字に濁点が付くような勢いで少女がそう言うと、意外なほど素直に子供たちははーいとばらけ、おとなしく課題や読書に励み始めた。
「もしかして、みんな天使ちゃんと遊ぶために?」
教室の外で、子供たちの様子を眺めていた母親たちの一人にひそひそと声をかけると、全員が驚いたように頷き合った。
「うちの子、普段は平日だけなのですけど、今日だけはどうしてもって言うから……まさかこんなに同じような子たちがいるとは」
身に覚えのありすぎる経緯に思わず苦笑する。苦笑するほかにない。
――天使ちゃん。なるほど、一筋縄ではいかないトラブルメーカーというわけだ。
それから一日、壱子は職員を手伝って子供たちの相手をすることと並行して、あまりにも『ほがらか』な少女の観察を続けた。
読書時間の様子を見るに、子供と遊ぶことだけでなく、子供自体が好きそうな雰囲気を感じた。活発なように見えて、その芯の部分には読書や物語を大切にし対話を心がける姿勢が顕著であった。年下や幼年への偏見や先入観なしに接するまっすぐな態度が、子供たちからも好かれているようだった。
一方で、勉強を教えるという面ではからきし才能がない。低学年の児童の宿題でも、かみ砕いて伝えたり、丁寧に解き方を教えたりすると言ったことができず、頭を抱えていた。おそらくは、学習において困難を抱えてこなかったのだろう。学年主席というのもむしろ納得できる。問題をどう解くか、ということを考えなくても解けてしまうのだ。改めて意図を問われると困ってしまう。こう解くのだから、こう解く。としか言えなくなってしまう。
外遊びの時間になると、彼女の本領発揮と言ったところだった。二十人はいると思われた児童たちを巧みに操り、適度な休憩を挟みつつ最後まで笑顔で遊び続けた。何かのスポーツでもしているのだろうか、無尽蔵にすら思える体力は少し羨ましかった。教師に向いているのではないか、と思ったが、すぐに授業の才能はなかったなと思いなおす。
まるで、星のような存在だ。あまねく誰もを照らし、誰もが手を伸ばす存在。しかし、その一人にだって、星は目を向けない。誰も特別にはしない。ただ煌々と光る彼方の星のような、そんな少女だ。
「ねーちゃんも一緒に遊ぼうよ!」
汗を垂らしながらそう駆け寄ってきた優二に、仕方ないなぁ、と笑って、日焼け止めを塗りなおす。弟の汗を軽くふいてやると、心から楽しそうな表情で再び輪の中へ戻っていった。
求心力というか、カリスマというか。純真な子供たちにあれだけ好かれるのだから、高校ではどんなトラブルに発展してもおかしくはないのかもしれない、と感心して、壱子もまたその輪に入っていった。
満足した児童が帰っていく午後五時。せっかくなので、と最後まで片づけを手伝って、壱子は荷物をまとめる弟を待っていた。教室には本職員の女性が二人と、さすがに疲れ切った様子の天使がカーペットの上に寝転んでいた。楽しそうなのは良かったけれど、あまり保護者さんにご迷惑をかけないようにね、と遠回しに『約束』をしないようにと釘を刺され、申し訳なさそうに肩を落としていた。
よし、と自分の心を奮い立たせて、天使に声をかけることにする。
「愛ヶ崎さん、だよな。今日はお疲れだぞ」
天使はゆっくりと目をこちらに向けると、驚いたように起き上がって正座する。
「わ、ええっと。優二君のお姉ちゃんの――」
「そう硬くならないでほしいぞ。私は三峰壱子。みんなからはワンコと呼ばれることが多いから、そう呼んでほしいな。愛ヶ崎さん、大人気で驚いたぞ」
天使は、そんなそんなと手を大げさに振って謙遜する。
「それよりワンコちゃんの方がすごいよ。周りが良く見えているっていうか、細かいところに気が利くっていうか。ボクは一人で突っ走っちゃうことが多いからさ。すごく羨ましいというか、参考にしようって思った」
少しだけ深刻そうな表情でそう言う天使の頬を笑顔でぐにぐにとつまみ、壱子は荷物を持って出ていく弟の後を追う。
「そこが愛ヶ崎さんの良いところだと私は思うぞ。それじゃあ、また学校でな」
教室から出ていく壱子を、天使はつままれた頬を自分で触りながら呆然と眺めていた。
「学校でって、もしかして、高校生だったの!?」
驚きの声を上げる天使に、職員の女性が教える。
「壱子ちゃんは、そこの台典商高の二年生よ。いつも生徒会のお仕事が終わってから、優二君のお迎えに来てくれるの。とってもしっかりした子よねぇ」
生徒会——天使の脳裏には、入学式で見た生徒会長、悪魔先輩の姿がよぎった。ぼんやりとしたイメージで、ラスボスのように最強オーラを放つ生徒会執行部の闇が晴れ、中からワンコ先輩が現れる。小柄でかわいらしく、優しく元気な笑顔の裏から、獰猛な狂犬の顔が現れ、あらゆる穴からビームを放ってくる恐ろしい妄想が止まらなくなる。
「ま、まずい……」
そうとは知らずに、年下だと思って上から目線で話してしまった、と紅潮していた体が急激に寒くなって来て、冷や汗が垂れ始める。
ともあれ、すっかり外が暗くなってしまう前に、天使は家へと帰っていった。
それから、一夜明け、すっかりとそんな失敗など忘れた天使だったが、週が明け、学校に来ると唐突に思い出す。
「い、いたっ! わ、ワンコ先輩っ!」
昼休み、学校を駆けまわり、どうにか三峰壱子を発見する。土曜日よりもいくらか気の抜けた様子で、同級生だろうか、どこか見覚えのある猫背の少女に抱き着いている。
「んぁ?ああ、愛ヶ崎さんか、どうしたんだ?」
「わ、私、その、先輩のこと、勘違いしてて、この前は無礼な真似をっ!」
三峰に抱き着かれていた丸眼鏡の少女は、怪訝な目で親友を見る。
「ワンコ、いったい何をしたんですか?後輩が土下座してしまいそうな勢いですが」
「えーっと、あんまり心当たりがないぞ。この前、弟の学童でたまたま会ったからその時のことだとは思うんだがなぁ」
天使は不安そうに両手を軽く握り、怯えるように縮こまって二人を見た。
「その、てっきり優二君のお姉ちゃんというので、中学生なのかと……」
三峰は親友の肩甲骨に頬を押し当てたまま、得心が言ったように、んぁーと鳴いた。
「それくらい気にしてないぞ。ちょっと迷惑なぐらいまっすぐなところが、愛ヶ崎さん――天使ちゃんの良いところだと思ったし、天使ちゃんも気にしないでほしいぞ」
三峰がそう言うと、猫背の少女が脱力した三峰を無理やり引きずりながら進みだす。
「解決したなら行きますよ。今は文化祭準備で忙しいんです。ワンコの手も借りたいんですから、お願いしますよ」
「ニャンコはツンデレだぞ。本当は私と一緒にやりたいだけなんじゃないのか?」
「ツンでもデレでもないです。馬鹿言ってないで行きますよ。それでは、愛ヶ崎さん、失礼します」
ずるずると引っぱられながらも、天使に親指を立てて笑う三峰の姿に、天使は言葉にしようのない尊敬の念を覚えた。
後に、天使は生徒会執行部に監視されており、あらゆる接触は筒抜けであるといううわさが流れ、一時的に天使は平穏を獲得することになる。
天使の見た三峰壱子という先輩は、どうにも気の抜けたような、それでいてエネルギッシュな存在だったが、入学式で見た生徒会長の姿同様に、一つの目標として憧れるあり方となった。全く同じ役割や活躍ができるかは分からないが、生徒会執行部、叶うならあの人たちの下で成長したいと、そう天使は思ったのだった。
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