第29話 野暮用で出撃ってなに!?
勢いで返しながらも俺の頭の中は急速回転していた。
この後に遭遇するネフィリムは、二機では倒せない。必ず三機必要だ。
それにこのままマードックを取り逃がせばバビロンの居場所を吐かせることができなくなる上に、レイン・キグバスまで失う。損害がでかすぎる。
ネフィリムが成層圏から現れるまでの間に、何としても奴を捕まえる必要がある。
整備班長は尚も聞きたそうな顔だったが、苛立ち混じりに嘆息すると、ぐっと飲み込んで周囲の整備員たちに指示を飛ばし始めた。
こういうとき大人の対応をしてくれるのは助かる。
「ち、ちょっと!? これなんなの!? ボロボロじゃない!」
振り返ると、パイロットスーツに着替えたアサミとイリエスが立っていた。
ブリーフィングルームに行く前に騒ぎを聞きつけて来たのだろう。
「ヨースター准尉はサンナイト・ミッドに搭乗! 別命あるまでそこで待機だ!」
「は?」荒れた格納庫を見回していたアサミが、こちらに振り向いて唖然とする。
「いきなりどうしたのよ。作戦会議は? 地上落下までまだ時間あるでしょ?」
「作戦会議する暇はない。俺はこれから野暮用で出撃する」
「野暮用で出撃ってなに!?」
「何もかも後で説明する! とりあえずお前はVNに搭乗していてくれ! この後に3部隊が合流してネフィリム討伐に当たることになる。俺が戻らなかった場合、そいつらと連携を取ってくれ。いいな!」
明らかに様子がおかしいのを察したのか、アサミが眉をひそめた。
「3部隊? 独立遊撃隊が三つも必要なくらい大規模な集団がきてるってこと?」
「いや……」
言い淀んだとき、艦内放送でオペレーターの声が聞こえた。
『監視衛星より詳報が届きました。敵性物体の数……1? 通常のネフィリムでは――い、いえ! 違います! ネフィリムの全長300メートル級! 観測史上最大級の個体です!』
格納庫がざわつく。
それはそうだろう、ネフィリムの体積はせいぜい10メートル、巨大なものでも50メートルが精々だ。
地表に落ちればネフィリムは無生命体を吸収してどんどんと巨大化していくが、あくまでそれは吸収した結果だ。
月から飛来する段階でこんなにも巨大なものは居ないかった。今までは。
「なんでそんなデカブツが来てんのよ!?」アサミが動揺の声を出す。
「一匹とはいえ、そんな奴が地表に落ちたら……!」
「ああ。タダでは済まないだろう。巨大隕石が落ちるようなものだからな。周囲数十キロメートルは被害が及ぶはずだ」
周囲の整備員達も俺の話を聞いて、ゴクリと喉を鳴らしていた。
「なんでそんなやつがいきなり……あ、待って。そいつ大気圏に突っ込んだら燃えて体積減ってんじゃない? 墜落したとき自重で消滅したりさ」
「思い出せ。通常のネフィリムでも体積はほとんど減らず落下してくるだろ。今回のも大気圏突入時に摩擦熱を最小にする形態になってくるだろう。ちょっとは減るだろうが、期待するほどじゃない。墜落時も、自壊してくれるほど楽な連中じゃない」
「で、ですよねー?」
楽観的思考が否定されても、アサミは特に気分を害したりはしていなかった。
無断な希望だと分かっていたのだろう。
「つうか、どうして今頃そんなネフィリムが来るってのよ。これまで来てた奴と全然違うじゃない! 詐欺じゃん!」
アサミは怒りの矛先を敵の不条理さに向ける。
今の段階なら、お約束が破られたショックにしか気が向かないだろう。
だが、本当はこの突然現れたような強力な個体の出現にも、ちゃんとした理由がある。お約束がある。
それを皆が知るのはもっと後なので、今は黙っておくべきだろう。
「理由なんて俺らには分かるわけない」俺は意識を変えさせるためにそう告げる。
「分かってるのは、俺達だけじゃ歯が立たないってことだ。3部隊は必要になる。この情報は他の部隊にも伝わっているだろうから、すぐに増援が来る。連携して事に当たるぞ」
「だからさっき3部隊って……あれ? あんたネフィリムの情報が出る前に言ってなかったっけ?」
「ま、まぁ今回はなんかおかしい気がしてな?」俺は視線を逸らす。
アサミが不審げにじーっと見つめてきたので「とにかく!」と強引に話をもとに戻す。
「俺が戻るまで待機。戻らなければ別部隊の指示を仰げ。いいな?」
「だーからあんた何しに外いくのよこんなときに!」
「少佐」アサミが尚も突っかかろうとしたとき、それまで黙っていたイリエスが手を上げた。
「私はどうすればよろしいですか」
「はぁ? あんたも待機に決まって……って、あれ」
俺が答えるよりも早くツッコんだアサミが周囲を見回し、パチクリと瞬きした。「――ないじゃん」
「レイン・キグバスはどこ? ハンガーも壊れてるし、なんで?」
「……盗まれた」
「盗まれたぁ!? どういうことよ説明しなさいよ!?」
「んな時間はないんだよ! いいか俺はもう行くからな!」
「少佐。私はどうすれば」
「~~っ! ええと! お前は!」
空気を読まないイリエスに出鼻をくじかれたとき、格納庫に声が響いた。
『イリエス准尉は私と来なさい!』
マリアだった。しかも肉声ではなく通信音声だ。
あれ、そういえば近くに居ないぞ。どこにいるんだ。
『これより
「了解。イリエス准尉、3番ラックに向かいVTOLに同乗します」
「ちょちょちょちょ待て待てイリエスにマリ――艦長っ!」
俺はイリエスを捕まえようと慌てて手を伸ばしたが、彼女はスタコラサッサとVTOLが待機している反対の格納庫へと走って行ってしまった。
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