第25話 貴様が所属している組織の本拠地を教えてくれるだけでいい
天牢のマギ・ログリス――通称天ログには、物語上の敵が二つ存在する。
一つは月のワームホールから飛来するネフィリムと、それを送り込んでいる首謀者たる
波動存在は地球をエネルギー確保の餌場として目をつけている。
人類を弄ぶ存在だから、わかりやすく敵だと言える。
もう一つの敵は、物語の裏で暗躍する人類に仇成す組織――バビロン。
バビロンの目的は人類の宇宙進出と進化だ。
それだけ聞くと敵のようには思えないが、実態は違う。
そいつらは選ばれたごく少数の人間、つまりお仲間だけで宇宙に脱出して、宇宙空間に適応する進化の恩恵に預かろうとしている。
ネフィリムに狙われた地球も他の圧倒的多数の人間も見捨てようとしている時点で、人類にとっての明確な敵だった。
バビロンがその存在を明らかにするのは物語後半だ。
連中は強大な権力と資金力を使って表舞台から身を隠している。
ある時点までは無害な存在とも言えるが、第15話以降では様相が変わる。
第15話でシンヨウが発動させた<堕天システム>。
それはバビロンが建造している宇宙母艦ノアのエネルギーをネフィリムから奪い取るためのシステムであり、元々はイリエスが精神崩壊と引き換えに発動させる計画だった。
バビロンは移動都市や
奴らに作られたイリエスすらも、己がエネルギー確保のために生み出されたとは知らされておらず、騙されるだけの悲しい存在だった。
そんなクソみたいな奴らの野望は、第23話までに決着が着く。
そして第24話では宇宙母艦ノアを奪い艦長になった俺ことデュランが、シンヨウ達を乗せて月へと攻勢に出る、というストーリー展開になっている。
しかし今は第13話。バビロンのバの字も出ていない。
秘密結社の存在は各首長や都市議連などの少数にしか知らされていない。
もちろんシェヘラザードの誰も、マリアも知らないだろう。
――だが、俺は知っている。バビロンの存在も、ノアの能力も。
そして、ノアに搭載されたエネルギー兵器――荷電粒子砲の存在も、だ。
SF作品によく出てくる荷電粒子砲は、電子や陽子などの荷電粒子を高電圧の電場で加速してビーム状に発射する兵器だ。
標的に衝突した粒子は、運動エネルギーを熱や電磁波に変え、凄まじい破壊エネルギーを与える。
無生命体であれば有機物も無機物も見境なく吸収してしまうネフィリムに対して、吸収できない純粋な破壊エネルギーをぶつけるこの兵器は有効打になる。
だからこそバビロンは宇宙母艦ノアに荷電粒子砲を搭載していたのだ。
ただ、この兵器には欠点もある。
まず荷電粒子を加速させるだけのエネルギーの確保。
そして大気中では威力が減衰してしまうこと。基本的には宇宙で使うことを想定されている。
これらの理由から、バビロンが宇宙母艦のみに搭載するだけに留まったのも頷ける話だ。
まぁ、ロー・アイアスに提供すると自分たちの脅威になる、というクソな理由もあっただろう。
だが、主人公がいなくなってしまったこの世界では、もはや荷電粒子砲のみが頼みの綱だ。
エネルギーの確保や大気中で減衰してしまうという欠点はあるものの、ディアブロ型を屠れる可能性があるのはもうこの兵器しかない。
それに二つの欠点は、人類の技術力と全ての資材を投入することで何とかなると俺は計算していた。
原作では宇宙母艦はもっと後で手に入れるはずだが、どうせ人類の敵でいずれは倒さなければいけない連中だ。
荷電粒子砲とノアを手に入れるついでに倒してしまっても構わんだろう。
それより、別の問題がある。
俺がバビロンの本拠地を知らないことだ。
原作では、宇宙母艦ノアは突然現れた。
それまでの経緯も詳細な居場所も全部省略されている。
視聴者でしかなかった
だから俺は一考した。バビロンの居場所に詳しい人間に吐かせればいい、と。
幸せ不幸か、この母艦にはちょうどめぼしい人間がいる。
マードック医師――バビロンの命令でイリエスを監視し、彼女を生贄にして堕天システムを発動させようと企む、ロー・アイアスに潜り込んだスパイ。
今はまだ善人の皮を被ったままだが、もうそんな事情は知ったことじゃない。
俺は裏切り者を利用するため、行動を開始する。
***
深夜。当直の乗員以外は寝静まっている時間帯に、白衣を着た男が足音も立てず廊下を歩いていた。
倉庫に繋がる通路を曲がったその角で、男が立ち止まる。
死角になる場所で胸ポケットから通信端末を取り出している。
隠れてどこかと連絡を取るつもりだろう。
そちらに気を張っているせいか、気配に気づいていない。
だから俺は、後ろを取られていると丁寧に教えてやるために、背中に銃口を突きつけた。
「動くな」
マードック医師が硬直する。
だが今の一瞬で通信端末は胸ポケットに戻していた。
さすがスパイ、手際が良い。
「……ワグナー、少佐?」
驚いたように呟く男が振り返ろうとする。
「動くなと言ったが?」俺は牽制するため、背中の銃口をゴリっと背中に押しつける。
「なんの真似ですか」
「なに、ちょっとした身元調査だ。貴様が所属している組織の本拠地を教えてくれるだけでいい」
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