第8話 ちょっと! さっきから何でファーストネームで呼んでんのよ!?
「大丈夫か!」
ヴェス・パーを操縦して、レイン・キグバスに近寄る。
『支障ありません。作戦続行します』
声とともに青いVNがゆっくりと起き上がる。
「分かってると思うが、エネルギー波は受けるなよ」
ネフィリムは凄まじい運動能力を誇るだけでなく、衝撃波やエネルギー波を放出してくる。
特にエネルギー波はまともに食らえばVNの人工筋肉では防げない。
『了解』とイリエスが冷静に返してくる。
その間もオレンジのハヌマーンは崩れた瓦礫をずぶずぶと自分の肉体に取り込んでいた。
少しずつだが体積も大きくなっている。
「いいか、作戦通りまずこっちの一体を仕留める。イリエス准尉と俺はキーパーとして足止めする。ヨースター准尉がとどめを刺せ!」
『了解!』
『わぁってるわよ!』
緑色のハヌマーンと戦っているシンヨウ、アサミから返事が来る。
彼らはもう一体の足止めをしているが、こちらがオレンジのハヌマーンを止めた瞬間にアサミがコアの破壊に来るようスイッチングする作戦だ。
「いくぞイリエス! ついてこい!」
フットペダルを踏み込み、脚部に人工筋肉を集中させてスピードを上げる。
追随したレイン・キグバスから、イリエスの声が届く。
『少佐。進言があります』
「なんだ!」
『軍規により呼び捨ては禁じられています。軽微な懲罰で済むと思われますが少佐の経歴に傷が――」
「いま言うこと!? あ、後にしろ!」
『了解』
謎の少女イリエス――実はマリアの人体実験を元にして作られた人造人間である彼女は精神が未熟で、会話が独特なところがある。
前世は他人事だから可愛いと思っていたが、実際に食らうと結構ビビる。
俺とイリエスでハヌマーンを挟み撃ちにする。
互いに
原作でもすばしこい動きをしていたが、予想以上だ。
だが、今はまだいい。本当に厄介なのが二体の合体だ。
体積がいきなり倍になって攻撃力がアップする上に、エネルギー波も躊躇なく使ってくる。
挟み込むと分離して挟撃される。だから二体は、距離を離さなければいけない。
(大丈夫だ、うまくいく! 俺ならできる!)
逃げ回りつつ長い腕を使った攻撃と超音波を駆使してくるハヌマーンは、一筋縄ではいかない。
が、それでも作戦は破綻していない。
こいつを掴まえれば一気に畳みかけられるはずだ。
レイン・キグバスの腕がハヌマーンの足を掴んだ。
空中に逃げようとしていたハヌマーンは勢いを殺され、地面に激突する。
「よくやったイリエス!」俺はすかさず延伸攻撃で腕を伸ばし、手刀をオレンジのハヌマーンの胴体に突き刺す。
レイン・キグバスと合わせて、二機でハヌマーンを捕まえた。
『少佐、やはり規律の無視はいけません。厳重注意では済まなくなります』
「だぁから後にしろっ!」
なんだか調子が狂う。イリエスとこんな漫才みたいなやり取りをしたことあったか?
ぐんっとヴェスパーが引っ張られた。
抗うハヌマーンがこちらの腕を掴んで引き寄せようとしている。
俺は舌打ちしながらフットペダルをべた踏みにする。
二体のVNで掴まえたオレンジのネフィリムは暴れ狂い、瓦礫と粉塵が飛び散った。ちょっとでも力を緩めると逃げ出されてしまう。
「合わせろ! 共振だ!」
『了解』
俺は頭部に意識を集中させる。
キィイイイイという甲高い音と共に、VNの胴体から光が溢れる。
途端、ネフィリムの動きが明確に鈍った。
奴は共振によって、接触したVNのことを「味方」と判断し始める。
味方を吸収することはできない、しかし肉体の一部が融合しているという矛盾した状況が、ネフィリムに重大なエラーを引き起こしていた。
「アサミ! 今だやれ!」
緑のハヌマーンと攻防を繰り広げていた二機のうち、赤い機体――アサミのサンナイト・ミッドがこちらに方向転換した。
緑のハヌマーンは意図に気づいたのか慌ててサンナイト・ミッドを止めようとしたが、すかさずシンヨウの機体――主役機たるマギ・ログリスが立ち塞がる。
足止めの役割だが、オールマイティーな活躍ができるシンヨウなら必ず食い止めてくれるはずだ。
日光が陰った。
空高く舞ったサンナイト・ミッドが陽光を背に受けながら、オレンジのハヌマーンめがけて接近する。
『でぇえええええい!』
裂帛の声で一閃。
振り下ろしたサンナイト・ミッドの右腕は刀のような形状に変化している。
振り下ろされた刃は、オレンジのネフィリムの頭部から股下までを一刀両断した。もちろん胴体にあったコアごと。
瞬間、オレンジの肉体が急激に膨れあがり爆発した。
ネフィリムの破壊が成功した証だ。
『一体撃破! ざまぁないわね!』
「よくやったアサミ! 残り一体を四人でたたみ込むぞ!」
『ちょっと! さっきから何でファーストネームで呼んでんのよ!?』
「細かいことは気にするな!」
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