第6話 デュラン・ワグナー! 出撃する!

 このままいけば、第15話でマリアはこのシェヘラザードごと最強のネフィリムに突撃して死亡してしまう。

 しかし、この第12話を生き残れば、第15話が来ても彼女の特攻を止められる。

 シンヨウが勝つことだって知っているから、主人公に任せておけばいい。


(結末を知っている俺だけができることだ。絶対に、守る)


 惚れた女の死亡フラグをへし折る――それが、俺の目的に追加された。


 ***


 ミーティングが終わり、男子更衣室でパイロットスーツに着替えてシンヨウと共に格納庫へ向かう。

 格納庫の反対通路からは、女子更衣室で着替えたアサミとイリエスが来ていた。

 それぞれのパイロットスーツは機体色と同じになっている。

 アサミは赤、イリエスは青、シンヨウは黒、俺は白だ。

 格納庫に揃った面々に、俺は指示を出す。


「いいか、作戦通りだ。これまでの陣形で任務を遂行する。アタッカーはヨースター准尉。キーパーは俺とイリエス准尉。ガードはタカキ軍曹だ。俺の合図と共に突撃し、まず一体を共振で止めて速攻で撃破する。その間、タカキ軍曹はもう一体の接近を押さえてくれ」


 それぞれが真剣な面持ちで頷く。

 その様子を見ながら、俺は原作第12話のことを思い返す。

 第12話で出てきたネフィリムは二体。

 それらは二体で一つという連係攻撃を繰り出してきた。さらに一体がピンチになると<合体>して攻撃力を増し、包囲されるとまた二体に分離するという厄介な機能を持っていた。

 今回のネフィリムは猿のような容貌から「ハヌマーン型」と呼ばれている。

 俺はハヌマーン型のトリッキーな動きに翻弄され敗北したわけだが、仕掛けが分かっていれば対応するのは容易い。

 まず一体を確実に仕留めて合体を防ぐ。

 そうすれば残り一体は袋の鼠だ。


「特にシンヨウ。お前は深追いするな」


 しきりに手首を触っているシンヨウの肩に手を置く。

 こいつは緊張していると手首を触る癖があった。

 今だって心臓が爆発しそうになっているに違いない。


「ある程度の足止めでいい。無理だと思ったら逃げろ。大破したら元も子もないからな」


 シンヨウはゆっくりと口を半開きにして、俺をマジマジと見つめてくる。


「いいか、俺達はフォーマンセルだ。四人で一つだ。欠けていい奴はいない。お前もそうだ、シンヨウ。お前の急成長には期待している。ここで退場なんてつまらない結末になるなよ」

「……あの、デュラン。本当にどうかした? 熱とかない?」

「だから健康だって言ったろ」

「だって、君がこんなに僕のことを心配してくれるなんて……言い方は悪いけど、普段は俺様の足を引っ張るなとか、そういう感じだったし」

「そーよ。あんたほんとにどうしたの? 頭打って別人になったりしてない?」


 割といい線を行っているな。それが面白くて俺はつい笑ってしまう。


「なに、単純なこと。こいつは民間人で、俺がいずれ守るべき対象の一人。将来に汚点を残したくないだけだ。それに将校として、使える人材に期待するのは当然のことだろう?」


 バシバシと肩を叩くが、シンヨウは更に困惑していた。「笑い方コワっ」とアサミは引いている。イリエスは相変わらず何を考えているか分からない表情だ。

 間違いなく今までの俺と違うことに違和感が生じているのだろう。

 だがまぁ、この程度なら不審がられるだけで済む。

 それに俺としても今日からは、こいつらと仲良くやっていきたいと思っている。

 たくさん話したい。

 

『ネフィリムの地表落下を確認! 総員戦闘配置へ! パイロットはVN搭乗後、速やかに出撃してください!』


 格納庫にアラート音が鳴り響く。整備兵も慌ただしく駆け回っていく。

 俺達四人は顔を見合わせ、それぞれ自分の乗機の元へ駆け寄った。

 俺の愛機は<ヴェス・パー>というコードネームの白い機体だ。

 膝立ちになって待機している愛機は、見た目はラバースーツに身を包んだ巨人のように見える。

 胴体、肩、腰、前腕、脛から足下、そして頭部は超硬質セラミックスの鎧で覆われているが、それ以外の部分はゴムのような質感を持った人工筋肉が剥き出しになっていた。

 体色の白は、人工筋肉を包む文字通りのスーツ素材だ。

 全ての無機物を吸収するネフィリムに対して、人類が生み出した武器は意味を成さない。

 吸収機能を一時停止する共振も、ネフィリムに接触しなければ効果がない。

 そこで導き出された人型駆動兵器のコンセプトはずばり、白兵戦に耐えうる構造を持つことだ。

 開発されたのが、様々な形状に可変する人工筋肉だった。

 そのため可変ヴァリアブルという名称を冠している。


 俺はハンガーラックから、VN背部のランドセルのようなユニットに近づき、ハッチを開けてコクピットに座る。

 VNを起動させ、オペレーターや各VNとの通信をコネクトさせる。

 様々な計器類を確認しながらフットペダルを踏むと、格納庫の中で8メートルほどの巨人がゆっくりと立ち上がった。

 整備兵達が進路の邪魔にならないようにと去って行くのがモニター越しに見える。


「第13独立遊撃部隊1番機、ヴェス・パー稼働安定、コアとのリンク完了。準備OK」


 格納庫から専用の射出口まで移動する。

 射出口の先端にある隔壁が、ゴウンゴウンと音を立てて開いていく。

 唸るような強い風と共に、真っ青な青空と霧のような雲間が見えた。


『了解、モニタリング開始。拘束解除、進路オールグリーン。いつでもどうぞ』

「デュラン・ワグナー! 出撃する!」

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