第3話 い、今からかよ……!
「……まぁ、事実だから仕方ないな。人類が負けるよりはよっぽどマシだ」
膝を手で打つ。
あいつがいる限り人類の敗北はない。
なら俺が全力で
悔しいとか俺の出番とかそんなちっぽけなことは問題じゃない。
この地獄が終わるなら、プライドなんて犬に食わせてやる。
だが、別の問題がある。
俺ことデュランは原作の途中で離脱するキャラだった。
確か12話だった。
離脱するまでの経緯はこうだ――。
デュラン・ワグナーは「移動都市ジュライ」首長の第二子で、後継者として戦場の経験を積むことと首脳部との人脈づくりのためロー・アイアスへ送り込まれた。
首長はあくまで一時的な経験づくりのためと考えていたが、しかしデュランは親の思惑に反してVNパイロットになることを決め、空母シェヘラザードに配属される。
VNパイロットに必要な素質と己の実力に絶対の自信を持っていたこと、そして亡き兄の仇を打つために望んで前線に赴いた。
デュランはネフィリムを殲滅するまで前線で戦い抜く覚悟だったが、首長は後継者として戻るように命令してくる。
無視し続けていると、業を煮やした首長が首脳部にかけあって除隊を決定してしまった。
更に主人公であるシンヨウ・タカキの急成長にも焦りを感じたデュランは、このままでは戦えなくなると焦り、決定を覆すだけの戦果を上げることを企む。
そうして現れた12話のネフィリムに対し、デュランは無謀な作戦を決行して敗北。一命は取り留めるが、両足切断という大怪我によって除隊を余儀なくされる。
――これが12話の展開だ。
なんというか、身に覚えがありすぎて嫌な汗をかく。
ただ原作では救いがあるというか、そのままフェードアウトすることはなかった。デュランは第24話にて再登場。
ネフィリムとの最終決戦で使った宇宙戦艦ノアの艦長を務めるほどの立派な復活を果たした。
その立場に到るまで何があったかはスピンオフで補完されていたが、ともかく、このままいけば大怪我は負っても死ぬことはない。いや両足切断は嫌だけれど。
しかしそうなると、チームから離脱してシンヨウの活躍を支えることはできない。
「たぶん、11話までは終わってるよな」
独白しながら眉間を揉む。つい先日に戦ったネフィリムの形状と戦闘状況、そして父親からの不快な電話。
それがキッカケでデュランは功を焦るようになった。
前世の記憶が蘇っていなかったら、きっと原作通りの行動をしていただろう。
ということは、このあとに12話が来る。迷っている時間はあまりない。
(どうする……残るべきか、従うべきか)
俺がいなくてもシンヨウは戦い抜くだろう。
これから色々あるが、あいつならできる。
なにせ
だけど俺は、できれば部隊に残りたかった。
一人でも多くの人を救うために戦いたいし、シンヨウや他の皆だけに任せて病院で寝ているのも嫌だ。
というか、24話の時点でノアに乗っていればいいわけだから、いくらでも辻褄は合わせられる。
自慢じゃないがスピンオフ作品も全部読んで展開を記憶している。原作再現なら余裕だ。
ただ、そんなことをしてもいいのかは迷う。
これは俺にとって現実だが、その根幹はアニメ作品だ。なにか影響があるかもしれない。
答えが出ないでいると、部屋の証明が赤く染まった。心臓が跳ねる。
アラート音が鳴り、オペレーターから通信が入った。
『全乗員に伝達。監視衛星よりネフィリムの降下を確認したと入電。繰り返す。ネフィリムの降下を確認したと入電。これより第一種戦闘配備に移行します。狙撃班は速やかに所定の場所で待機。後方支援班は補給と医療支援の体制を維持。VNパイロットはブリーフィングルームに集合してください。地表降下までタイムリミットを設定。乗員は速やかに行動を開始してください』
「い、今からかよ……!」
12話が始まってしまう。せっかく記憶が蘇ったのに、考える暇もないのか!
「くそっ」俺は急いでジャケットを引っ掴み、廊下へ出る。
慌ただしく走り回る乗員の間を縫うように、艦長が待つブリーフィングルームへと向かう。
ブリーフィングルームは航空戦闘空母の艦橋にある。
到着すると、部屋の中央にある地球儀のようなホログラム映像の周りに、主要メンバーが集まっていた。
(おお……!)
主人公のシンヨウ・タカキがいる。
線が細く、どこか困ったような笑い方をする繊細そうな少年は、いまは緊張した面持ちで立っていた。
ヒロインのアサミ・ヨースターがいる。
勝ち気でプライドが高く、誰に対しても譲らない少女は、腰に手を当てて不遜な態度を維持していた。
ヒロインのイリエスがいる。
表情の変化が乏しくいつも静かに佇む彼女は、今もただ命令が下るのを待って真顔を維持している。
(……いつも見ている面子なのにな。記憶が蘇るとこうも違うのか)
昨日まで俺が抱いていた印象はそれぞれ「ろくに訓練も受けていない邪魔な民間人の男」「軍属ながら上官に楯突く生意気な女」「どう扱えばいいか困る女」というものだった。
正直なんでこんな面子を従えなければならならいんだ、と俺はいつも不満だった。
しかし前世の知識が加わったことで、三人の出生も過去も奮闘も葛藤も、すべてが手に取るように分かってしまう。
そうなると愛着が湧いてしまうというか――前世で大好きだったキャラと戦えることが純粋に嬉しい。
三人のポテンシャルを知ったことで、昨日までの不満は霧散した。
我ながら現金だと思うが、大ファンなのだから仕方がないだろう。
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