第2話 魔王の力を確かめたら、とんでもないことになった

「おいおい、さすがにコレ、やりすぎじゃないか?」


転生して「魔王アークノア」となった荒久空(あらく そら)は、目の前に広がるトレーニング場を見渡しながら、そう呟いた。


前回の勇者カイの襲来(?)事件も落ち着き、ようやく自分が魔王としてどれだけの力を持っているのか試してみることにしたのだが、想像以上の状況に頭を抱えていた。


それは些細な部下の一言から始まった。


「魔王様!どうぞ遠慮なく、我々にその偉大なるお力をお見せください!」


そばにいた筋骨隆々の魔族が、期待に満ちた目で言う。

他の魔族たちもその場に集まり、みな一様にワクワクした表情で空を見つめている。

どうやら、数百年ぶりに復活した魔王の力を間近で見ることを心待ちにしているらしい。


(こんなに期待されてもな……)


空は心の中でそう思いながらも、魔王としての立場を示すため、力を試すことに決めた。

何もわからないままでは、この先不安で仕方がない。

転生したとはいえ、今までの自分はただの大学生だ。

力の出し方もわからないまま、勢いで転生初日に勇者と和解するという珍妙な経験をしてしまったことを考えると、少しでも自分の力を把握しておくべきだと思うのも無理はない。


「よし、とりあえず火の魔法から試してみるか」


空は軽く両手を構え、頭の中で「火球(ファイアボール)」をイメージした。


「火球(ファイアボール)!」


掛け声と共に、空の手のひらに炎が現れ、瞬く間に巨大な火の玉が形を成した。


「えっ、ちょっとデカすぎないか、これ……」


目の前に浮かぶ火の玉のサイズは、当初のイメージを遥かに上回っていた。

小さく制御したつもりが、直径数メートルはありそうな巨大な火球が彼の目の前に浮かんでいるのだ。


「おおお……!さすがは魔王様!なんと壮大なお力!」


「その火球で一撃必殺ですぞ!」


周りの魔族たちは歓喜の声を上げるが、空は戸惑いを隠せない。

このまま放っておくと火球が暴走しそうな気がしたため、急いで「えいっ!」と放り投げた。


すると、火の玉はトレーニング場の端に向かって突進し、衝撃と共に石壁を粉々に砕き、さらにその勢いで城の外まで突き抜けてしまった。


「……うわぁ」


ぽかんと口を開けてその光景を見ていた空だが、背後では歓声が轟いていた。


「す、すごい……!魔王様の力はやはり並外れている!」


「壁など一撃で粉砕するとは!」


空は複雑な気持ちでその反応を聞き流しつつ、「とりあえず威力はあるみたいだな」と自分に言い聞かせた。


(でも、これじゃコントロールもなにもあったもんじゃないな)


次に試すのは風の魔法だ。

空は、風の刃「ウィンドカッター」をイメージして、軽く手を振った。

すると、彼の指先から放たれた透明な刃が、トレーニング場の中央に置かれていた訓練用の巨大な石像に向かってまっすぐ飛んでいった。


「ウィンドカッター!」


空が叫んだ瞬間、風の刃が石像に命中。次の瞬間、石像が粉々に砕け散り、周囲に砂埃が舞い上がった。


「おおお……さすが魔王様!」


魔族たちは再び感嘆の声を上げるが、空は内心でまたしても制御の難しさに困惑していた。

彼が思い描いたよりもはるかに大きな破壊力が出てしまう。

小さな「カッター」をイメージしていたはずが、結果的には石像を完全に破壊するほどの大技になってしまったのだ。


(ちょっと…、これやりすぎじゃないか?)


「続けて氷の魔法もお試しください!」と誰かが叫ぶ。

空は一度深呼吸し、氷の魔法「アイススピア」を試してみることにした。


「アイススピア!」


空が力を込めて放つと、今度は彼の手から巨大な氷の槍が出現し、訓練用の石像に向かって突き刺さった。

だが、空の予想を裏切るように、槍はただの氷塊ではなく、巨大な氷山のように石像を覆い尽くし、周りの気温を急激に下げた。


「ひ、氷山……」


周囲の魔族たちが恐る恐る近づくも、その場の冷気に怯えて立ちすくんでいる。


(いかんいかん、これはまずいぞ)


今度は周りの魔族たちが怯え始めてしまった。

空も焦り、氷の槍を消そうとしたが、どうやっても消えてくれない。

こんな威力を放ってしまうとは思いもよらなかったのだ。


そんなとき、後方から落ち着いた声が聞こえた。


「魔王様、少しずつ力を分けて試してみてはどうですか?」


その声の主は勇者カイだった。

どうやらまた城に立ち寄っていたらしい。


「少しずつ、ね。わかった、ありがとう」


カイの助言に従い、今度は意識的に魔力を小分けにしながら魔法を試すと、ようやく狙った威力の範囲で「火球」や「氷の槍」を出すことができた。


「これでようやく、コントロールできるようになったかも」


ほっと胸を撫で下ろした空に、カイがにっこりと微笑んで言った。


「さすが魔王様。想像以上の威力でしたよ。

ですが、無理せずに徐々に試していった方が良さそうですね」


「はは、まぁそうだな」


空は苦笑しながらも、カイの助言に感謝した。

とはいえ、魔王城は半壊状態。これ以上の実験はしばらく控えるべきかもしれない。


トレーニング場から城内へ戻ると、他の魔族たちが再び感激しながら、彼を迎えてくれた。


「アークノア様はやはり偉大なる魔王でございます!」


「勇者を味方にし、これほどの力をお持ちとは……!」


そんな声が飛び交う中、空は照れ笑いを浮かべた。そして心の中で、「転生早々、波乱の予感しかしないな」とつぶやいた。

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