3  たこ焼き

 あっという間に1時間はたって、ぼくは後ろ髪引かれる思いで、猫カフェをあとにした。

 奇妙な満足感だった。

 最終的に、ぼくのひざにも猫が来てくれた。 鼻筋を境に灰色と白に分かれているのがおもしろい毛並みだなぁと思っていたら、「ハチワレちゅう。漢字の八みたいやろ」と、宮崎さんが教えてくれた。



「なら、行こか」

 宮崎さんを先頭に、ぼくらは、またアーケード街を歩いた。というほどでもなく、すぐ目的地に着いた。


 まさしく、たこ焼き屋だった。遠目にも、客でにぎわっているのがわかった。

 掲げている看板はたこが8本の足を広げている絵だし、もはや店外の囲みの屋台で、店主が手際よく、銅板のたこ焼き機で焼き上がる、たこ焼きを引っ繰り返していた。客は、その前で焼き上がりを待っている。

「イートインしよう」

 宮崎さんが店内に入ったので、ぼくと石川はついて行った。

 ひとつだけ、テーブルが開いていた。

「ちょうどよがったですね」

 石川は、めずらしげに、きょろきょろと辺りを見回した。宮崎さんは、ここでも慣れたふうだ。

「12個の3皿で、ええよな」

 イートインメニューは、8個か12個かの二択しかない。清々すがすがしい。

「さっき、猫カフェでドリンク飲んだがら飲み物は、頼まねえでいいんじゃねえが」

 石川が、ぼくの言いたかったことを、きっぱりと口にしたから、「そだね」と、同調した。宮崎さんも、「そやな」と、いそいそと無料のおひやを汲みに行く素振りを。

「あ、すいません。します」

 ぼくは急いで、丸い座面のパイプ椅子から立ち上がった。


 15分ほど待っただろうか。

「お待ちどうさま」

 ぼくらのテーブルに、たこ焼きの皿が三つ、やって来た。

 ぼくの見知っている、たこ焼きとは違うようだ。ソースや青のりがかかっていない。

「ここのは素で食べるんが、うまいで」

 宮崎さんが、ぼくがテーブルに置いてあったソースに目をやったのを見ていた。

出汁だしと、しょうがが利いてるから。ま、最初はソースをかけんと食べてみい」

「そうなん」

 ぼくと石川は、皿に添えてあった小さなフォークを、たこ焼きに突き刺した。待ちかねていたので、口に放り込んでから後悔する。

あふい熱い

「ふぁふぁ」

 石川にいたっては、言葉になっていない。

 ぼくも石川も、おひやを流し込んで口中のボヤを消し止めた。

「落ち着かんかい」

 宮崎さんは、にやにや笑いながら、自分の皿のたこ焼きは、二つ割りにしまくっていた。

 こうなることがわかっていた目だ。

 大阪人は、いじくされ意地悪なんか。

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