第10話 臨間学校②
ピンと立った耳が特徴的な、褐色肌の獣人が弾丸のようにフランさんへと発射される。
彼女は寸前で受け身を取るも初めて、その体勢を崩す。
「ふっは! かってえなァ!?」
「……っ!!」
霊体は痛みこそ感じない(厳密には設定次第らしい)が、傷を介して衝撃を感じ取れる。
フランさんの
要するに、この一撃は確かに彼女へとダメージを与えていたのだ。
「消えろッ!!」
炎がその獣人の影を覆い尽くす。
しかし同時、いや少し早くの動き出しから炎が広がる前に脇へと移動。
フランさんの頬を、その爪が掠める。
「……貴方、名前は?」
「ジュリ。次期『獣王』候補ヒットウ! 覚えとけよッ!」
ぼうっとそれを眺めていたわたしは、そこではっと我に返る。
わたしもサポートに――
そう思った時、大きな影がわたしを覆う。
「よそ見してる暇はないぞ」
先の狼人が、わたしの前へと肉薄していた。
そして、犬歯を見せて告げる。
「がっかりさせてくれるなよ? 同類」
「っ!!」
その言葉に周りが反応することはなかった。
しかし、こいつ……!!
バレているのは予想していたけど。
躊躇なくそれを使ってわたしを挑発した。
早く片付けないといけない、敵として認識する。
「……!?」
――ドッ!!
振るわれる大剣が、わたしの居た場所にクレーターを形成する。
どんな剛力だよ!
「そんなものか? かつて最強であった血を引く、『魔王』の娘」
「お前っ!!」
揺さぶりだとしても、つい反応してしまう。
はやく、口を塞がなければ……。
そんな中、イースくんが勇ましく声を上げて剣を構えていた。
「そこの獣人! 僕が相手だ!!!」
「やっちゃえ、ダーリン!!」
背後から堂々と、叫びながら剣を振るう。
そんなんじゃ、気づかれるにきまって――
「あ」
獣人が躱すと、眼前で剣を振り上げるイースくんの姿があって。
彼は思わず剣を引くが、そのまま態勢を崩す。
「ちょっ、だいじょうぶ!?」
「後ろだ!!」
……え?
背後から、横薙ぎに大剣が振るわれていて。
「ぐおお!!」
「~~っ!!」
衝撃が視界を揺らす。
わたしたちはまとめて、吹き飛ばされたのだ。
その一振りの直撃をイースくんが請け負ってくれたのもあって、わたしはあまりダメージにはならなかった。
が、彼はそうではない。
確かな傷跡が、深く刻まれてしまっている。
「が……っ」
「ダーリン! しっかりして!?」
アンナさんが駆け寄る。
即死だけは避けたみたいだが、もうたぶん無理だろう。
……早く、立ち上がらないと。
たって、援護に。
けれど、力をどこまで使えば?
どう使えば、この場をやり過ごせる?
そんな考えがぐるぐると、わたしの中を巡る。
「ふん、つまらんな」
「ま……っ」
わたしを尻目に見て、狼人は二人の方へと向かう。
「駄目だ、逃げろ!!」
「でも、ダーリンを置いてなんて!」
「だめだ!!」
イースくんがアンナさんを突き飛ばす。
それでギリギリ、アンナさんは一撃を回避できたのだ。
「最後に意地を見せたな。最低限だが敬意を評しよう。名もなき冒険者よ。俺の名はウルウィア、最後に覚えておけ」
「くそっ」
今度こそ、彼の霊体は光の粒子となって霧散した。
ああ。
……なんで、自分はこんなにそれを、他人事のように見ているのだろうか。
力を使えばなんとかなったかもしれない、救えたかもしれない。
でも、だって、仕方ないじゃないか。
できないんだから、バレちゃいけないんだから。
仕方ない……よね?
ウルウィアと名乗った狼人は次に、アンナさんの方へ視線を向ける。
「貴様はどうだ。守られてばかりか?」
「ひっ! た、たすけて……っ!!」
「……白けたな。もう貴様らに用はない、向こうの増援にでも向かうか」
言い残して、獣人はその場を去っていく。
そして静寂の中に、わたしとアンナさんは取り残された。
「――せいよ」
「え?」
「アンタのせいよ! アンタのせいで、ダーリンがやられちゃったじゃんか!」
「それは……」
言葉に詰まる。
彼女はわたしを睨みつけて言い続ける。
「アンタ、ほんと何なの!? セインさんはあんまり話したことないけど、クラスメイトとして凄いと思うよ!! 誇らしいと思うよ!! 特別扱いされて然るべき人だとも!! けどアンタは何も無いじゃん! セインさんに気に入られているだけの、ただの役立たずじゃん!!」
は?
何もできなかったわたしは、無性に腹が立っていた。
なにが役立たずだよ。
好き勝手言う権利なんて、そっちだって無い癖に。
「アンナさんだってそうじゃん。ただ足を引っ張ってただけの癖に」
「は? あーしに歯向かうっての?」
「歯向かってきたのはそっちじゃん! 役立たずだって、わたしに文句言える権利なんてあんの!?」
「今あーしは関係ないでしょ!? ダーリンについて言ってんだよ!!」
「だから、自分の無力を棚に上げて言える義理じゃないって言ってんの!! 非力を認めてるわたしの方が、よっぽどマシだね!!」
何を口走っているのだろう。
相手を言い負かしたとして、なんにもならない。
無力同士で比べあっている現状に気づき、わたしは思わず口をつぐむ。
「自分を棚に上げてとか、セインさんの腰巾着が言ってんじゃねえよっ!!」
「ち、がう……」
違う。そうじゃない。
わたしはセインの……セインの?
「ほら、何も言えない! セインさんのお気に入りだからって、調子に乗るなよ? アンタはマジで何も無いんだから!! アンタはただの――」
『ウオオオオオオオオオオオ!!!』
――――ドガン!!!!
そんな時、圧倒的な質量の何かが戦場に降り立った。
それだけで、地響きが伝わってくる程に。
『ふうむ』
砂煙が晴れると、見えたのは鎧だった。
しかもそれは機械の鎧、アーマードスーツとか、そういった類の何か。
ただ、その中の何者かの魔力、そして隠しきれない圧倒的な存在感。
正体なんて、言わずとも分かる。
『ワレはよく空気が読めないと言われる。が! それでも名乗っておくとしよう!!』
そして機械の鎧は、紫の眼光を放し名乗りを上げる。
『ワレこそがこの迷宮の主――――獣・王・『ウイガル』!! だッ!!』
混沌はわたしのことなんて気にもとめずに。
更に、その速度を増していく。
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