第4話 無関心の外側
この女って?
まさか指を差されてるわたしのことだったりする?
だったら酷い誤解だ。
「あの、別れる以前にわたしたちは決して付き合ってなんか」
「うるさい。私はセイン様に聞いてるの。口を挟まないで」
その有無を言わせぬ物言いに、わたしは押し黙る。
わたしというやつは、性根が雑魚雑魚なので強気にこられると基本的に負ける。
「聞いてもいいかな、フラン」
「はい!! もちろんですセイン様!!」
露骨な対応の差に少し心が痛い。
ただわたしが言っても聞いてもらえないので、後はセインに任せるしかない。
頼んだという意味を込めて目配せをしてみると、彼女はぱちっとウインクで返してくれた。
言葉を交わさずとも伝わった感じがして、ちょっと気分がいい。
「まず君のいうように彼女がわたしのフィアンセだとして、何か問題があるのかな?」
……って何いってんだこいつ!!
そもそもそんな話してない、飛躍させるな!
訂正、わたしの意志は何も伝わっていなかった。
その上、フランさんからの追い打ちまで飛んでくる。
「問題おおありですっ!! なんでこんな、どこの馬の骨とも分からない。しかも弱そうなのと!!」
「そんな気にすることかな」
「気にします!! 私だけじゃない、みんなセイン様を心配してるんです!」
まあ、付き合いのある人間からしたらわたしみたいな素性の分からない奴が急に親しげにしていたら危惧してもおかしくはない。
この状況で素性をひた隠しにしているのもあって怪しまれるのは当然ではある。
「私のことを想ってくれるのは嬉しい。けど何度も断っているのにしつこく迫るのは筋違いだ。心配という言葉を盾に、私を強要しないでくれ」
「ち、ちがいます。私はセイン様のことを尊敬しているから! だからセイン様に相応しい人なら、私は応援するつもりで――」
「フラン」
底冷えするような声に、彼女は言葉を失う。
傍目から見ていたわたしも、ゾッとしてしまった。
初めて見せる、セインの真剣な表情から目が離せない。
「人に優劣をつけるのは、君の悪い癖だよ」
「でも、セイン様は『勇者』です。正式に認められた、正真正銘の『勇者』です!」
「そもそもそんな肩書も、等級で分類するのも好きじゃない」
「でも!! それでも……他の有象無象の冒険者とは違う、絶対的な頂点には変わりない!!」
「そう。ただこの学園ではそんな肩書は持ち越せない。私も君も、ただの一学生に過ぎない。フラン、君は少し思い上がりが過ぎるよ」
冷たく言い放され、彼女はその青い瞳を滲ませる。
そんな状態でも、彼女は主張を変えることはなかった。
「違う、違う違う違う!! セイン様と他の人間は、同じじゃない。同じなわけない……っ!!」
去り際にわたしを見て小さく――『認めない』と、そう言い残して。
わたしとセインは、その静寂に取り残される。
「あの、さ」
「……なに?」
「あんな言い方しなくてもいいんじゃない?」
雰囲気を変えるつもりだったのに、思わず話を掘り返してしまった。
ただその、フランさんが少し不憫に見えたのは本当。
「侮辱されたのは君なのに、なんでそんな……」
あれ? 困惑してる?
「でもさ、考えてみてよ。フランさんが怒るのも最もじゃない? わたしなんかが尊敬してやまない人の傍にいたら、気にいらないってのは当然だよ」
「……そんな風に、自分を卑下するのはあまり好きじゃないな」
「いやいや、現実を見てるだけだって」
卑下してるつもりは全く無い。
だってわたし自身が自分のことが嫌いなんだ。
嫌われる理由なんて、わたしが一番わかってるつもりだ。
「君は……」
物悲しげな表情で、セインはわたしを見る。
もしかして憐れまれてる?
別にわたしが嫌だと思ってないならそれでいいと思うけどな。
「私は君が無下に扱われるのが嫌だった。だから少し……感情的になってしまったのは認めるよ」
「そ、そうなんだ……えと、でもわたしは気にしてないよ。大丈夫だからさ!」
気にしてなかったはず……なのに。
わたしの為に怒ってくれたのが、嬉しい?
いや、落ち着けわたし!
そんな甘い言葉に騙されるほど、わたしはちょろくない!
「じゃあ話を変えよう。君は確か、学友が欲しいと言っていたね」
「そりゃあまあ、あんたとばかり一緒にいると疲れるしね」
「そんな照れ隠しはおいといて、私としてもあまり今の君の状況は変えたいと思ってる。私がただ直接紹介しても、その場しのぎにしかならない。だから策を考えてきた。間接的にだけど、全面的にサポートもするよ」
「ほんと!? 至れり尽くせりじゃん!」
「どうかな、私の策に乗ってみる?」
「乗る乗る!!」
「乗ったら最後、途中下車は無しだよ?」
「分かった!!」
わたしだって華の十六歳。
本音のところ、学友が欲しい。
交友関係に関してはセインは幅広いし、彼女が間に入ってくれるならこれ程心強いことはない。
「で、誰を紹介してくれるの?」
「まあまあ。その前に一つ、私の言説を聞いて欲しい」
「え? まあいいけど……」
「好きの反対は無関心と言われたりするけど、私は好きと無関心は隣り合わせにあると思うんだ」
「いきなりなにどうしたの、バグったの?」
「要するにさ、気にもとめてない存在があるきっかけ一つで気になる存在になるような、そんなロマンスが見たいってこと」
言ってる意味が…………あ。
「まさか……」
「ふふ」
わたしの反応を見て楽しそうに彼女は、その答えを述べる。
「そう、君が攻略するのは"獄炎"の『勇者』と呼ばれる、この学園、このクラスの生徒――フラン・リワールだ」
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