第三話 渡辺風花はフラペチーノが飲みたい ⑨
「やっと見つけた! 何してるのこんなところ、で……えっ?」
声の主は息を切らせたエルフの渡辺で、最初彼女は泉美しか見ていなかったようだ。
だがすぐに同じテーブルについているのが行人だと気づき、その瞬間運動の熱で汗をかいていたエルフの美貌が絶対零度に凍り付く。
「お、大木……くん? なんで、なんで泉美ちゃんと一緒に……ムンバデートしてるの?」
そして、凍り付いた瞳から死者の魂が燃え上がったような蒼い炎が燃え上がったような錯覚を、行人は見た。
「え? ええ⁉ で、デート? いや、ちょっと待って渡辺さん! そういうんじゃなくてこれは……!」
「ううん。ううん。大丈夫。分かってる。大木くんは知らなかったんだよね。泉美ちゃんのこと。大丈夫。知ってるんだそのことは。ただ、ちょっと衝撃の光景に取り乱しちゃって」
「は、はあ……」
「これは、泉美ちゃんの悪戯だね?」
そして、絶対零度の標的を泉美に向ける。
「ちょ、ちょっと待ってよ風花ちゃん!」
すると先ほどまで行人を圧倒しようとしていた泉美が慌てふためいて立ち上がった。
「で、デートとかじゃないって! こ、これはそう! センパイの人となりを確かめないといけないなーって!」
「どうして泉美ちゃんがそんなことする必要あるの」
「い、いやだって! それは風花ちゃんがあ!」
「私が、何?」
夕方のカフェのテラス席。そこそこ他の客がいる中でのエルフの渡辺の異様な気配に周囲も気づき始める。
「何かしら。痴話喧嘩?」「うわードロドロの青春」「あれって南板橋の制服だよね」
明らかに良くない誤解が広まり始める気配を敏感に感じ、行人は事態の収拾に入る。
「わ、渡辺さんはどうしてここに⁉」
「……いつまで経っても泉美ちゃんが部活に来ないからおかしいなと思ってたら、泉美ちゃんが大木くんを探してたって教えてくれた人がいたの」
「「えっ! まさか!」」
また行人と泉美の声が重なる。
行人が今日、写真部部室にいることを知っている人間は、行人以外には一人しかいない。
「あンの先輩、余計なこと言って……!」
泉美も同じ人間に思い当たっているようだ。言わずもがな、小宮山哲也だ。
「小宮山君がね、凄く可愛い一年生の子が大木くんを探しに来たってわざわざ部室まで来て教えてくれたの。……泉美ちゃん」
「は、はいっ!」
「泉美ちゃんが、私のことをいつも心配してくれてるのは、嬉しいって思ってるよ」
「う、うん、だから私っ!」
「でも……それならこれは、どういうこと?」
エルフの渡辺は、一瞬明るい顔になった泉美に自分のスマホを突き付けた。
「泉美ちゃんのインスタアカウント……『二年の先輩に奢ってもらって、ムンバデート』。そうじゃなければいいなって思ったけど……小宮山君に聞いて、嫌な予感がしたの。まさかとは思うけど、大木くんと一緒なんじゃないかって思って。そしたら……」
「い、いつの間にそんな投稿を……」
エルフの渡辺のスマホに表示されているのは、ブロッサムホワイトフラペチーノとアイスコーヒー、そして行人の影だけが写った写真だった。
どこで、誰が、の2Wがよく主張された、いわゆる『匂わせ写真』だ。
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