第三話 渡辺風花はフラペチーノが飲みたい ⑧
「え? 何でそれを?」
「いくつも文化部に仮入部するつもりだって言ったじゃないですか。園芸部には、実はもう行ってるんです。そのときに風花ちゃ……あ、渡辺先輩に、写真部の人が出入りしてるってちらっと聞いたんですよ」
「そ、そうなんだ。じゃあ小滝さんが、渡辺さんの知り合いだったっていう……?」
泉美の声の圧が少し強くなっているような気がするのは気のせいだろうか。
「園芸部も今、一人部活ですもんね。もしかして部員募集チラシとか、何か広報用の写真を撮るために出入りしてるんですか?」
「あー……いやそれは、まあ、何と言うか」
行人は少し口ごもる。
言わずもがな、これまで行人が園芸部に出入りしていたのは渡辺風花をモデルにしたコンテスト用の写真を撮るためだ。
だがその大義名分とは別に、渡辺風花と親密な関係を築きたいという下心があったことは全くもって否定できず、結果として初対面の女子には、少し話しづらいことのような気がしてしまった。
「違うんですか?」
泉美のやや派手めな第一印象から、写真部に興味を持ちそうな女子に見えなかったのは行人の偽らざる第一印象だ。
どちらかと言えば行人のような人種とそりの合わないタイプに見えたが、それは逆に行人が偏見で彼女を見ていたことが、かなり熱心に行人のカメラ講座を聞いてくれていたことからも窺える。
ここは、下手な言い訳をする場面ではないと行人は判断し、またスマホの画面に『東京学生ユージュアルライフフォトコンテスト』のメインページを表示し、泉美に差し出した。
「園芸部の渡辺部長にはこのコンテストに出品する写真のモデルになってもらってたんだ」
泉美はしばらくその画面を読み、スクロールして概要を読んでいたが、張り付いたような笑顔がいつの間にか消えた顔で、行人を見上げた。
「応募資格は都内在住または在学の学生……。ユージュアルライフってことは、学生の日常生活を撮るってことですよね。この場合は、風花ちゃんのことを」
「う、うん。そうだね。もし入部してくれるなら、小滝さんも……え? 風花ちゃん?」
「どうして園芸部で、どうして風花ちゃんだったんですか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。小滝さん、渡辺さんとそこまで親しいの?」
既に泉美の顔は全く笑っておらず、どこか行人を敵視するような目で睨んでいるばかりだ。
「質問してるのは私です。本当に、風花ちゃんの日常の姿をちゃんと写せるんですか」
「いや、それは……」
「できませんよね?」
行人が何か言う前から断言する泉美の目は、先程までの怜悧さは欠片も無く、怒りと微かな戸惑いが満ちていた。
「待ってくれ小滝さん、いきなりどうしたんだよ」
「だってセンパイのカメラじゃ風花ちゃんの本当の……!」
「泉美ちゃん!」
感情のままに何かを言い募ろうとした泉美を、鋭い声が制止した。
「「あ」」
声の主を見て、行人と泉美の声が重なる。
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