第三話 渡辺風花はフラペチーノが飲みたい ③
◇
「それで、写真部ってどんなことやってるんですか?」
小滝泉美と名乗った一年生女子の問いに対する行人の答えはシンプルだった。
「基本は撮りたい写真を撮りたいカメラで撮ってるだけかな」
「おお、そのまんま」
「もちろんコンテスト目指してとかカメラ関連の勉強会とかやらないわけじゃないよ。実際俺も今、コンテスト目指した写真撮ってるし」
「ああ、コンテスト。なるほどです」
泉美の目が少し細まったことに、行人は気づかなかった。
「まぁ今じゃ俺一人だから勉強会もクソもないし、今日は折角仮入部に来てもらえたんだから、普通に撮影の実践しようかなと思うんだけど、小滝さん、写真に興味があるって話だけど、例えばこんな写真が好きとか、どんな写真を撮ってみたいとか、ある?」
「んー、まあ興味があるといってもそこまで本格的に知ってるわけじゃないんですけど、やっぱどうしても、こういうことになっちゃいますよね」
そう言って泉美が取り出したのはスマートフォンで、少し遠慮がちに続けた。
「スマホでSNS用の写真とかじゃ、ダメですか?」
「全然そんなことないよ。でも何でそんな疑問を?」
「いやあ、なんか写真とかカメラにうるさ……こだわりある人って、SNSに写真上げてる若い人とかスマホの写真でイキるの、嫌いそうなイメージありません?」
泉美の持つそのイメージも、完全に間違いとは言い切れない部分があるにはある。
「別に俺はそんなことないし、どっちかと言うとカメラや写真にそこまで興味ない人の方がそういう偏見持ってる感じがするけどね。そうだ、最近撮ったSNS用の写真とか、見せてもらえたりする?」
「はい。ええと、これなんてどうですか?」
泉美がスマホに表示したのは、コーヒーショップのムーンバックスで先週まで販売されていたドリンクだった。
「おお、いいね。ムンバのスプリンググリーンスムージーか」
カップを中心に据えて、背景は店内だろうか。基本を押さえた良い構図の写真だった。
「え……こういうのチェックしてるんですね。ちょっと意外です」
「SNSで映えてバズる写真って、つまりは多くの人目を引く写真ってことでしょ? それってつまり広告効果が高い構図ってことで、写真で身を立ててる人はみんなそういう写真を撮ってるんだ。だったら、そういう流行はある程度押さえとかないとね」
「あー、そういう考え方もあるんですね」
「じゃあ、それやってみる?」
「え?」
「それ。スマホでSNS映えする商品撮影。確か今週から、桜モチーフのフラッペが発売されてたよね」
「そんなのでいいんですか?」
「今時写真を撮ろうと思ったら避けては通れないジャンルだよ。あーまあその……」
ここまでそれなりの熱を持って語っていた行人が、ふと何かに怯えるような顔になる。
「その場合、俺と二人でムンバに行くことになるから、男と二人でそんなことしたくないって思うなら、基礎的なことは一緒だから学校の食堂で自販機のペットボトルとかで同じ撮影ができるけど……どうする?」
「あー……あー、なるほど、そういうことですか」
一瞬訝しんだ泉美は、すぐに悪戯っぽい笑顔を浮かべる。
「私は別に大丈夫ですよ。むしろ、センパイこそいいんですか?」
「え? 何が?」
「知り合ったばかりの後輩女子と二人でムンバでデートとか、彼女さんが怒りません?」
「彼女? い、いや俺別に彼女とかいないよ?」
「へぇ」
泉美の笑みが深くなる。
「へえ! 意外! 凄く手慣れた感じで誘われた気がしたんで、てっきり女の子慣れしてるのかなって、そしたら彼女さんいるって思うじゃないですかー」
「お、女の子慣れ? 何言ってるんだよ! むしろ慣れてない方だよ! か、カメラオタクだし、ムンバも最近やっとビビらずに入れるようになったくらいで」
「分かりました。そんなに慌てないでくださいよ。そういうことにしておいてあげますから」
「しておいてあげるもなにもそういうことなんだけど……まあいいや。それじゃあ行こうか。上板橋の方のムンバに、いい席があるんだ」
「はーい。よろしくおねがいしまーす」
そうして二人は連れ立って、写真部の部室を出て、学校から歩いて五分と少しのムーンバックス上板橋店に向かう。
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