第三話 渡辺風花はフラペチーノが飲みたい ②


      ◇


「か、仮入部⁉ 本当に⁉」

「はい! 私、写真に少し興味があって」



 部室の入り口に現れたどこか見覚えのある女子に向かって、行人は思わず、その場で手を合わせ跪きそうになった。いや、跪いていた。



「あ、あの、どうしたんですか?」

「なんだか、後光が差しているように見えて」



 新年度が始まって久しいが今のところ写真部には新入生どころか仮入部希望者すら存在しない始末だった。

 現実問題として、行人に一学年上の先輩がいないことからも分かる通り、写真部は例年新入部員の獲得に苦労していた。

 卒業した三年生は人数も層も豊かでそれぞれに色々なカメラや写真の知識・知見を持っていたが、先輩曰くその圧が強すぎて行人に先輩を作ってやれなかったのだと詫びられたことがあった。



「部員は俺一人で、仮入部すら申し込みが来たことなかったから、本当、感動しちゃって」

「一人って……それじゃあ外で活動してるとき誰か来ても分からないじゃないですか」

「一応対策はとってたんだけどね」



 部室の外にはご自由にお持ちくださいのチラシと『入部・仮入部希望者はこちらへ』と行人に直通するメッセージアプリのQRコードを掲示しているのだが。



「まぁ、来ないよね」

「でしょうね。相手がどんな顔してるかも分からないのにいきなり直通はちょっと」

「い、一応新入生向け部活ガイダンスのときに顔出しはしたんだけどね」



 自分でも目立つタイプの顔立ちではない自覚はあるし、教員の許可を取って卒業したばかりの元三年生が応援に来てくれたりもしたのだが、結果はご覧の有様だ。



「ごめんね、挙動不審で。こんなこと言ったけど、まずは気楽に体験してもらえればと思ってます。じゃあとりあえず、クラスと名前教えてもらっていい?」



 問いかける行人に、女子は蠱惑的な笑みを浮かべて言った。



「はぁい。一年C組の、小滝泉美こたきいずみって言います」





 エルフの渡辺は、園芸部の部室で一人、静かに座って待ちぼうけしていた。



「おかしいなぁ。泉美ちゃん、もう来てもいいはずなんだけどなぁ」

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