第三話 渡辺風花はフラペチーノが飲みたい ④

「あれ? そう言えば小滝さん、帰りの荷物は? 一度学校出たら戻るの面倒じゃない?」

「大丈夫でーす。私ここ終わった後も少し学校で用事があるんで、出かけるなら身軽な方が」

「ふーん。そうなんだ。写真部以外に仮入部しようとしてるとことかあるの?」

「あーはい。まあ、その、ええっと、将棋部とか囲碁部とか?」

「へー、写真に将棋に囲碁かぁ」

「あとは園芸部とかですかねー」

「園芸部?」



 ある意味意外な名前が出てきて、行人は思わず目を見開いた。



「どうしたんですか? そんなに驚いて、意外ですか?」



 園芸部の名前に驚いたことを見抜かれたのか、また泉美は少し笑った。



「お爺ちゃんの影響なんですー。全部お爺ちゃんが好きなジャンルで」

「あ、ああ。そういう……」

「お爺ちゃん、なんだっけ、ええと、道楽モノ? ってやつで、家に高価な将棋盤とか盆栽とか古いカメラとかいっぱいあって、私そんなに運動は得意じゃないけどそういうのに触れて来てはいたから、何か関係する部活はやりたいなと思ってて」

「へー。なるほどなー。まあ俺は写真部部長だからできればお爺さんのカメラを生かす方向に進んでもらいたいけど、どの部活に入ってもお爺さんは喜んでくれそうだね」

「そうかもですねー」



 そんな雑談をしている間に南板橋高校の生徒もよく利用するムーンバックスに到着した。



「あ、テラス席空いてますよ」

「いいね。とりあえず座っちゃおう。今日の部活のテーマは新作商品のSNS映えする写真だから、新作のアレでいい?」



 行人が指さす先には、春の新作、ブロッサムホワイトフラペチーノの看板があった。



「いいですけど、あのお金は?」

「今日は仮入部で来てくれた後輩への勧誘活動だから、部費が使えるんだ。俺の金ってわけじゃないけど、まぁ仮入部時だけのログインボーナスだと思って」

「ログボって。でもなるほど分かりました。じゃあご馳走になります」

「うん。待ってて。サイズはトールでいい?」

「はい」



 行人はサイズの確認を取ってから注文の列に向かう。

 泉美は手を振ってそれを見送り、行人が行列に並んでこちらを見ていないことを確認すると、体から力を抜いて椅子のひじ掛けに寄りかかりながら、つややかな肌の足を組むとすっと笑顔を消して、氷のような目で行列に並ぶ行人を睨んだ。



「女とのおでかけに妙に慣れてるじゃん。益々気に入らない」

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