第二話 渡辺風花はそわそわしている ⑨

 これには行人も純粋な驚きと、それと祝意が心から湧いた。

 高校の部活動は、結局のところ一世代でも人が入ってこないとあっという間に廃部の危機に陥る。

 部に昇格したての園芸部はともかく、行人の写真部など、去年の三年生にいくつかコンテスト入選の実績がなければ、行人の一人部活になったところで即時廃部となってもおかしくないのだ。


 現実には行人の一人部活になった時点で部費は大幅に減らされており、今年中に部員が五人になるか大きな実績を示さなければ部費の出ない同好会への降格するのも時間の問題だ。

 だが行人自身に人を集める才覚と努力が足りなかったため、二年生が始まってもうすぐゴールデンウィークも近づいてくるというのに、今のところ写真部を誰かが訪れることも、訪れた形跡もない。


 それだけに同じ一人部活の園芸部に新入部員が入ったのは、他人事ではあるが単純に嬉しくもあり、少しうらやましくもあった。



「もちろんそういうことなら遠慮するよ。どう考えたって初日にカメラ構えた俺がいたら邪魔だもんな」

「べ、別に大木くんが邪魔ってわけじゃないよ⁉」

「分かってる。ありがとう。でもやっぱり一年生には最初にその部が何をする部活なのか、きちんと丁寧に見せてあげないといけないしさ」

「うん。そうなんだけどね」



 それでも少し申し訳なさそうにしているエルフの渡辺に、行人は言葉を重ねる。



「それは、俺が写真部で先輩にしてもらったことでもあるんだ。コンテストは写真部の事情で渡辺さん……というか園芸部に無理言ってお願いしてることだし、園芸部の大切なことはお願いしてるこっちが大切にしないと」

「うん。ありがとう。もうその子にも、私が大木くんの……つまり写真部の活動に協力してることだけは話してるんだ。だからその、えっと」



 少しだけ言いにくそうに、それでもエルフの渡辺は勇気を込めて言った。



「大木くんがまだ私をモデルにしてくれるなら、すぐにまた撮影に入ってもらえると思う」

「……うん」



 行人は少し間を置いて頷き、先程撮影した食事中の渡辺風花の写真を見る。



「スマホが魔法の対象ってことはコンデジとかデジタルミラーレスとかフィルムカメラでも、写真を撮ると今のエルフの姿じゃなく、日本人の姿で写るの?」

「うん。そうじゃないと、学校の卒業アルバムとかでも、エルフの姿になっちゃうでしょ?」

「まあ、それもそうか」


「日本人の姿で写るなら、コンテストも大丈夫?」

「それは大丈夫だけど、俺が今使ってるカメラは撮る瞬間までは俺自身の目で対象をファインダーから捉えてるから、目で見た印象と現像した写真のイメージをすり合わせる練習はしなきゃいけないと思う」

「やっぱり混乱しちゃう?」

「多分、する。撮影の瞬間目で見てる姿形と実際現像される写真の姿形が変わっちゃうわけだから、実際それがどれくらい結果に影響するかは、回数を重ねて試してみないと分からない。だから……多分、振り出しに戻ったくらいの気分でいないとダメなんだと思う」

「でも、そう言ってくれるってことは、私がモデルのままでいいの?」

「俺としてはお願いしたい。渡辺さんが良ければ、だけど」



 行人がそう告げると、エルフの渡辺は微笑んだ。

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