第二話 渡辺風花はそわそわしている ⑧

 エルフの渡辺は差し出された手を、反射的に握り返す。


 正面から握手をする形になった二人。行人は軽くその手を引くと、しゃがみ込んでいたエルフの渡辺は引き上げられるように立ち上がり、やがて元居た椅子に腰を下ろした。

 そこで行人は手を離すと、両手の親指と人差し指で長方形をつくり、撮影する画角のアタリをつける仕草をしながらエルフの渡辺の顔を指のフレームに収める。



「エルフが本当にいるのかとか、地球上にいるのかとか、魔法なんて本当にあるのかとか、あるならあるで正体隠して生活してるのはなんでかとか、今すぐ知りたいことは確かにいくつもあるけど、今見えてるのが渡辺さんの本当の姿なら、また、その、好きになりたい」


「おお……き、くん……」


「え。えっ?」



 行人は思わず慌てて腰を浮かす。

 何故なら、エルフの渡辺が、驚いたような表情のまま、静かに涙を流し始めたからだ。



「ご、ごめん、俺、俺なんか良くないこと言った⁉」

「あ、う、ううん、違うの。ごめんね。おかしいな。でもね、凄く、嬉しくて」

「え。え⁉」

「だ、だって、自分でもおかしいと思うもの。それに、エルフとまではいかなくても、友達が本当の姿を隠してるなんて、普通は不誠実でしょう。だから……多分、大木くんにも、嫌われちゃったんだろうなって思……ってでぇ」


 急にぽろぽろと涙をこぼして顔を覆うエルフ女子を紳士的に落ち着かせるスキルなど、高二のカメラ小僧には搭載されていなかった。

 おまけに『本当の姿を隠してる友達』はそこまで普通の存在ではないので、どう反応していいのか分からず凝固してしまう。



「ぐすっ……ぐすっ」



 渡辺風花が行人の前で泣いたことなど、これまで一度として無い。

 それでも感情を抑えきれないこの声が渡辺風花の声であることだけは、決して変わらなかった。



「ごめんね。もう、お昼休み、終わっちゃうね……ズビー」



 しばらくして目じりを赤くしながらも泣きやんだエルフの渡辺は、はなをかんで、それらを誤魔化すような笑顔を浮かべる。



「全然、大事なお話できなくて、ごめんなさい」

「いや、俺は……」



 確かにこれから渡辺風花をモデルに写真を撮るか否か、ということについては全く話が進まなかった。

 だが、コンテストの締め切りまでにはまだ時間があるし、今日が無理なら放課後の部活にでも話す時間はあるだろう。

 そう思ったことを告げると、エルフの渡辺は少し申し訳なさそうに眉根を寄せた。



「ごめんなさい。今日の部活は、ちょっとダメかもで」

「本当に何かいつもと違うことやるの? いや、もちろん無理にとは言わないけど」

「うん、実は今年、一人だけだけど、園芸部に一年生が入ってくれたの。今日はその子が初めて部活に来る日で、撮影しながらだと、色々教えにくいから……」

「え! 新入部員!」

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