秋風が穂を枯らす

星部かふぇ

秋風が穂を枯らす

 今日僕――秋斗は、幼馴染であり親友でもある風雅と穂乃花との三人で遊ぶ日だった。


 高校生のときまではよく遊んでいたのだが、大学に入学してからの間は新生活というのもあり、お互いがバタバタしていて集まる機会すらなかった。バイトの都合や、講義のスケジュールなども相まって、三人の休みが重なる日が滅多にない。

 そんなこんなで遊ぶ予定を調整していたら、いつの間にか半年ほどの時間が過ぎていた。


 十月のある平日、僕たちは駅の近くにあるショッピングモールで待ち合わせをした。

 久しぶりに親友たちと会うことが、楽しみで仕方がない。半年ぶりではあるが、それほど緊張はしていなかった。互いに気を遣わず会ったり、話したりするのが親友たちとの付き合い方だったからだ。


 駅から出ると、秋風はひんやりとした空気を運んできた。


 少し肌寒いような気がして、家から持ってきたラフな濃い茶色のジャケットを羽織る。中には白色の長袖Tシャツ、下は黒の長ズボン。親友たちの言う「ダサい」ファッションじゃないか、と少しだけ心配するが、もう家を出てしまっているためどうにもならない。


「あれ? 秋斗くんじゃない?」


 聞き馴染みのある声がして、振り返るとそこには穂乃花がいた。


「穂乃花! 久しぶり」


 穂乃花は小柄で、僕よりも背が低かった。茶色に染めた長い髪を下ろし、化粧までしているからか前に会ったときよりも可愛いように見える。白色のニットに、明るい茶色のロングスカートを着こなしていた。


「今から集合場所向かう感じ?」

「そ、そうだよ。てか、髪染めたんだね」

「うん! まぁでも、今の髪の感じ見たらわかると思うけど、色落ちた後なんだよね」


 穂乃花は髪を指でくるくるとさせて遊ぶ。


「前は何色だったの?」

「大学入学した直後くらいかなぁ、あの時はちょっと薄めのピンクみたいな感じでかわいかったんだけど、もう今じゃフツーの茶髪だねー」


 穂乃花の姿の変化についていけていないが、今の髪色は今の髪色で似合っている。


「今の髪色も似合ってるよ」

「えへへー、ありがとね」

「そろそろ時間近づいてきたし、ショッピングモール行こうか」

「そうだね。行こう! どうせ風雅は遅刻ギリギリだし、あんま気にしなくてもいいんだけどね」

「それはそうだ」


 駅周辺にはかなりの人がいた。ここら一帯は大きなショッピングモールもあれば、飲食店も充実していて、遊びの施設もある。近くに僕が通う大学もあることから若い人たちも多く、平日でもかなり賑わっていた。


「祭りでもあるのかな」

「んー、普段からこんな感じだよ。でもちょっと今日は多めだな」


 そう話しながら二人で歩道を進む。肩がぶつからない程度の横二列が精一杯な歩道で、まえを歩く人たちと同じペースで歩かなければならない。ここらは車通りもかなりあるから、抜かすのには危険だった。

 だから、僕たちはのんびり歩いていたのだ。


「ねぇ、穂乃花。最近――」


 ガギン、という重い金属から鳴る音が僕たちの頭の上で聞こえた。

 次の瞬間には、僕は倒れていた。

 何が起きたかわからないが、頭から耳にかけて鋭い痛みが走る。


「痛た……今、何が」


 ゆっくりと体を起こし、顔を上げる。


「へ……?」




 隣を歩いていた親友が、看板になっていた。




 穂乃花の代わりと言わんばかりに、人の背丈くらいの大きさがある看板が立っていた。


「ほ、穂乃花」


 僕が手を伸ばそうとした瞬間。看板はぐらりとバランスを崩し、倒れた。


「うっ」


 それでも懲りずに看板に手を伸ばす。


「穂乃花、穂乃花……?」


 指先に伝わるのは、冷たい金属の感触。美容クリニックの名前が大きく書かれた看板が、そこに倒れている。頭を押さえていた方の手で触ったからか、そこにべったりと血がついた。


「ど、どうして……」


 秋風がビルの隙間を抜けて、やけに強く吹きつける。


「僕、何か……いや、僕のせいじゃ……」


 道路に面した繫華街はどこもかしこも人だらけ。歩道からあぶれた人が道路を歩くも、そこは車通りも多く、度々耳に刺さるようなクラクションの音が鳴り響く。

 僕の周りから人が離れていく。一定距離を保ったところに人の壁ができる。あれはきっと見物客、野次馬。


「女の子が、つ、潰れて……」

「キャーッ! 誰か救急に、誰か通報してないの⁉」


 何を言っているかよくわからない人たちもいる。ひっ、というような声にもならない悲鳴を上げては、口元を抑え足早に去っていく人もいる。


「おーい、秋斗! 座ってどうしたんだ! 今行くから!」


 風雅が、地面に座ったままの僕に遠くから呼びかけてきた。僕と風雅の間には人の壁ができていて、僕の目の前の様子が見えないのだろう。


 その隙間から風雅の姿が見えた。

 寝ぐせのせいか跳ねまくった黒髪。デニムジャケットの前を閉じ、白色のズボン、ベージュ色のスニーカー。どうにも見慣れた服だった。高校時代から着ている服で、この季節に僕たちと遊びに行くはいつもあの服だった。


 ああ、変わらないな。と思うと同時に、受け入れがたい変化がすぐ傍にある。


 待って、やめて、来ないで。

 僕の心の叫びが声に出ることは無かった。


 風雅は人混みをかき分けて、僕たちのいる場所まで来ようとした。


 その状況に息を呑む人、スマホ片手に立ち止まる人、やばいやばいと言いながら慌てる人、通報しようとする人。それらすべてを風雅は押しのけ、潜り抜ける。

 その様子を僕はただ目で追うことしかできない。穂乃花を直視することもできず、風雅の元へ行くこともできない。目が、身体が、足が、そこに縛り付けられたかのように重く、動かせなかった。


 僕のせいじゃない。僕のせいじゃない。僕のせいじゃない。


 口で息を吸う。吐く。繰り返すたびに荒くなる。呼吸の感覚が狭まり、過呼吸のような状態になる。それがわかっていても落ち着きを取り戻せず、冷たいようで熱いような汗が背中を伝う。


 それでもどうにか正常な状態に戻ろうとして、鼻で意識的に空気を取り込む。鼻の奥に届いたのは、求めてもない血の匂いだった。


「秋斗、どうして立ち止まって……って、え、え、待ってくれよ」


 風雅は僕たちの元に辿り着いたと同時に、看板になってしまった穂乃花と対面した。

 ああ、見てしまった。見られてしまった。風雅には見られたくなかった。どうして見られたくなかったか。そのことすら僕には考えられない。考える余裕が残されていない。


「おい、秋斗、説明してくれ。何が、何が、どうなって……」


 風雅は両手で口を押え、息を呑んだ。僕は風雅の顔色が徐々に悪くなっていく様子を、茫然と眺めていた。


 ぐちゃぐちゃになってしまった思考をどうにかしてまとめようとする。


 風雅が説明を求めている。話さなくては。頭ではわかっている。しかし、口がパクパク動くだけで、喉から声が出てこない。


「お、おい。何か言えよ、秋斗! 説明しろよ!」


 そんな僕の目を見ながら風雅が怒り、大声を出しながら、僕の肩を掴んで身体全体を揺らしてくる。


「そんなの……僕だって、僕だって知りたいよ」


 うわずった声で、必死に言葉を押し出す。身体は静かに震えていた。


「僕の、隣を歩いていた、穂乃花が……看板になったんだ」


 僕の目から涙がボロボロと溢れ、こぼれ落ちていく。そう伝えるので精一杯だった。それが、僕が感じた全ての事であり、一瞬のことだったから。


「看板にって……こんな時までふざけるのか⁉ なあ!」

「ふざけてなんか、ないよ……。ただ本当に、そう見えただけで」


 頭では状況を理解できても、否定したい現実が目の前にある。

 穂乃花は落下してきた美容クリニックの看板に押しつぶされていた。

 きっと直撃だった。その衝撃がどんなものかも想像しきれない。ただ僕の隣で、潰れて、血が溢れていた。変わってしまった穂乃花の姿を直視することはできない。僕の中ではそれは「穂乃花」であるのかさえも、わからなかった。


 看板とビルを繋げて支えていた金属の部分が、茶色く錆びていた。塗装も剥げて、露わになった金属部分が雨風に晒され、劣化していったのだろう。


 よく見れば、その朽ちて尖った部分にも血が付いていた。きっと、僕の頭にぶつかった部分だろう。


 ああ、せめて僕と穂乃花の位置が逆だったら。

 どれだけ後悔しても遅い。

 現実の僕は、その場に座り込むしかできなかった。


 風雅に状況を説明することもできず、救急車を呼ぶこともできず、周りの人に助けを求めることもできず、ただそこに座り込むだけだった。


 僕は、愚かで、とても弱い。


「なあ! 答えろよ、秋斗! 隣で見てたんだろ、お前が全部知ってるんだろ⁉」

「ぼ、僕のせいじゃ……」

「なあ……、そうじゃねぇだろって。俺、こんな、こんな……」


 視界がぐらりと歪む。眩暈か、頭痛か、何かもわからない。考えられなくなっていく。

 次第に手の先が痺れていき、それは足にも連鎖する。


「うっ」


 強く引っ張られる感覚に、思わず声が出た。

 いつの間にか、風雅が僕の服を強く掴んだまま座り込んでいた。肩を震わせ、声を押し殺して泣いているようにも見える。


 やけに冷たく感じる秋風が僕の頬を滑り、穂乃花の髪を微かに揺らした。


「ごめん、なさい。穂乃花、風雅……」


 空っぽの頭から出た言葉は、とめどなく湧いてくる罪悪感を紛らわすための謝罪だった。



 ◆◆◆



 あれから三日が経った。

 穂乃花は一人暮らしをしていたため、皆で地元へ戻ってお葬式をした。

 親戚や友人たちが涙する中で、僕はどうにも泣けなかった。秋風が感情を攫っていったかのようだった。もしくは、穂乃花が全てを持って行ってしまったか。

 僕は昔から、日常から引き剥がされるとどうにもソワソワして仕方が無かった。

 お葬式会場の近くに、親友たちとよく遊んだ公園があったことを思い出した。それも小学生の頃の話だが、ふと思い出したからには行かないといけない。

 夜の秋風が僕の背中を押した。ただの追い風でもあった。




 公園のベンチに人影が見えた。僕と同じような喪服を着た男性――風雅だった。


「やっぱここ来ちゃうよな」

「そうだね……」


 僕はその隣に腰掛けた。


「懐かしいよな。昔はよくここで遊んだもんだ」

「ブランコとか、砂場とかでね。たまに風雅がボールとか持ってこなかった?」

「そうそう、サッカーボールな。あのジャングルジムも……思い出ばっかだな。ここは」


 繫華街と住宅街のちょうど間あたりにある公園にしては、広かった。遊具の種類も豊富で、王道どころのものは全て揃っている。昔はまだ子供も多かったからか、自分たち以外にも遊ぶ子たちがたくさんいたような記憶がある。

 しかし今は時間が時間というのもあり、僕と風雅の二人の姿しかなかった。


「……事故が起きたとき、強い言葉で捲し立てて悪かった。すまん」


 お葬式の後というのもあり、どうしてもこの話題は避けられないことはわかっていた。


「正直あの時のことは僕もよく覚えていないからいいよ、もう」

「秋斗が自分の事まだ責めてんじゃねぇかって思ったけど、予想通りだったな」


 そんな素振りを見せた覚えはなかった。


「どういうこと?」

「隠さなくてもわかるんだよ。幼馴染だから」

「そ、そっか」

「それにほら、昔この公園で遊んだ時も……」


 風雅はゆっくり、ぽつぽつと語り出した。


 小学生の頃、僕たち三人でこの公園で遊んだときのこと。穂乃花がジャングルジムの一番高いところから落っこちたことがあった。風雅が言うには、そのとき僕は穂乃花の隣にいて、助けられなかった、気づけなかったことをずっと悔やんでいたらしい。

 結果的に穂乃花は軽い打撲で済んだらしい。しかし、その後三日間くらいの僕はずっとクヨクヨしていて面倒だったと。

 自分が悪くないのに、自分にできることがあったんじゃないかと思い後悔する。それは今も昔も変わらないように思えた。


「よく覚えてるね」

「まぁなー。幼馴染のことだしそりゃ覚えてるよ」

「今言われて『そんなことあったなー』って思い出したよ。まぁ……穂乃花が亡くなったときのことは責めてはいたかな……はは」


 僕の乾いた笑いに風雅は一切の反応を示さなかった。

 妙な沈黙の間があり、僕は思わず風雅の顔を見た。目の下のクマが酷く、やつれている。目に光はなく、どこか不気味さまであった。


「なあ」


 先ほどとは違った低いトーンが、僕をドキリとさせた。何を言われるのか見当もつかなかったから。


「ん、な、なに?」

「ずっと言ってこなかったけど、俺、お前のそういうところが嫌だったんだよ」


 いきなりのことすぎて、僕はその言葉の意味を理解するのに時間がかかった。


「そういうところっていうのは……、く、クヨクヨしてる、ところ? とか?」

「違う」


 冗談を言えるような空気ではないことだけは確かだった。


 いつの間にか秋風は止んでいた。遠くの虫の音だけが聞こえるが、それ以上に自分の心音がうるさい。風雅の次の言葉が怖くて、怖くて仕方が無かったのだ。


「子供の時も、あの事故の時も、お前は穂乃花の心配なんて一ミリもして無かった」


 あまりにも心外だった。親友のくせして、僕のことなど全く理解していないと思った。


「……は? どう、どういうこと? 心配は、してたし……」

「自分の心配はしてただろ」

「じ、自分の心配って、どういう、さっきから何を……」


「あとから自分が責められるんじゃないかーとか、自分のせいじゃない言い訳ばっかり考えて、ジャングルジムのときだって……穂乃花のフォローどころか助けようともしなかったじゃないか」


「は、はぁ? ジャングルジムの件に関して僕はあんまり覚えてないから、何も言えないけど……。それはそれとして、言いがかりにもほどがあるよ。いくら風雅でもそれは言い過ぎだ」


 突如攻撃的になった風雅に対して身構える。それでも風雅は敵意を露わにしたまま話し続けた。


「あの事故のときだってそう。警察の人に事情を訊かれたときだって、『僕のせいじゃないんです。ただいきなり友達が看板になって』しか言わなかったじゃねぇか。保身ばっかして、穂乃花の容態ひとつ聞きやしなかった癖に」


「そんなの、そんなの……。僕だって混乱してて……」


「別に俺はお前のことを責めたい訳じゃねーよ。そういうところが嫌いだって話。でも穂乃花は『そういう一面も含めて親友の秋斗くんなんだよ』とか言ったけどな」


「はは……」


 もはや本心ですらない乾いた笑いしか出てこなかった。


 穂乃花の優しさ、寛容さには時々驚かされていた。慈愛に満ちた穂乃花の精神に度々癒されることだってあったし、逆にイラついたときもあった。でも、それももう二度と感じることのない感情だけれども、今となってはそれらすべてが愛おしいように思える。


「穂乃花は親友だとか幼馴染だとかいう関係性を大事にしてたやつだったよな」

「……そうだね。穂乃花は友達も多かったし、その中でも僕たちは特別――」

「きっしょ」


 特別だったのかな、という言葉を品のない暴言で遮られた。


「うっ……」

「穂乃花から見ればそうだったっていう話なのはわかってるよ」


 風雅のフォローはフォローですらなかった。君も僕も同じじゃないか、という言葉をぐっと抑え込む。


「風雅はさっきから何を言いたいんだ?」

「俺はお前がずっと嫌いだった」

「……そ、そう」


「俺にはな、穂乃花の優しさに付け込んで、自分が気持ちよくなってるだけの奴に見えてた。穂乃花の悲劇を自分の悲劇みたいに扱いやがって、悲劇のヒロイン気どりのナヨナヨした奴だとずっと、ずっと、ずっと思ってる。今も昔も、ずっとな」


「……」


 想像以上の毒を一度に心で受け止める。もういっそ、受け止めない方が良かったのかもしれない。


 一番触られたくない内面の部分を、思い切り鷲掴みにされたような不快感。

 言葉が出てこない。僕が何か反論したら、それ以上の毒を投げかけられそうで。

 この時僕は初めて、親友に対して恐怖を抱いた。


「俺は穂乃花が可哀想だと思ってたよ。お前の自己愛にずっと利用されてきてたんだからな」


「……自己愛って、何だよ。いきなり色々言ってきたかと思えば、何なんだよっ。お前はさっきから好き勝手に言いやが――」


「ああ、気づいてなかったんだ」


 風雅はそれ以上の事を言わなかった。冷めた目で僕を見つめて離さないだけだ。


 呆れられている。僕の無意識がここまで風雅を傷つけているとは思っていなかった。いや、まさにこの姿勢こそが僕の悪いところだったのかもしれない。


 わからない。

 長い沈黙の果てに口を開いたのは風雅だった。


「何も言わないってことは図星か? それとも本当に今まで自覚が無かったのか?」


 わからない。

 わからない。


「もういいよ。穂乃花との思い出を汚したくない」


 このまま風雅が去ってしまいそうな気がした。


「な、なんで……僕をそんな悪く言うの?」


 でも、咄嗟に出た言葉は最低なものだった。


「捻り出した言葉がそれかよ。なんも、何にもわかってねぇんだな」

「違う、待ってくれ、そうじゃないんだ……」


 自分でも何が「そうじゃない」のかわからなかった。何もわかっていないのは僕のせいで、僕が悪くて、僕が――。


「もういい。俺は何度だってお前の悪役になってやる。最低な奴だってずっと思っておけばいい。でも、お前が気持ち良くなるのに穂乃花を使うのは許さない。それだけは絶対に覚えてろ」


「……ま、まってよ。何か、誤解が」


「俺とお前はもう親友なんかじゃないし、友達でもない。ここでお別れだ」


 いつからだろう。風雅が僕の名前を呼ばなくなったのは。

 風雅はベンチから立ち上がった。


「え、え……え?」


 僕は思わず手を伸ばすが、風雅に届くことなかった。それ以上に、僕はベンチから立つことすらできなかったのだ。


「じゃあな」


 風雅は公園から出ていった。

 追いかけることもできず、言葉を投げることもできない。顔から背中にかけてやけに熱い。まるで自分を全否定されたかのような苦しさが残り続ける。


「どうしてこうなったんだろ……」


 僕としては、うまくやれていると思っていた。仲の良い親友、ずっと一緒にいる幼馴染、ちゃんとそういう風にやれていたはずなのに。いつから風雅と僕の間に不和が生まれたのだろう。


 無自覚な部分? 鈍感な部分?

 ちゃんと風雅の話を聞いたはずなのに、肝心な部分の自覚ができない。


「もしかしたら……」


 きっと風雅は、穂乃花が死ぬ瞬間に立ち会えなかったことに嫉妬しているのだ。

 あの二人は親友以上のような、それぐらい近い距離間で互いと関わっていたから。

 きっとそうだ。きっとそうに違いない。

 僕は悪くない、巻き込まれたんだ。風雅の感情を受け止めてあげたんだ。


「……帰ろ」


 木枯らしを身に受けながら、僕は静かに立ち上がり公園を去った。


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