Day15-1 エンターテイメント
寒空の下、潮煙公園は大勢の人でにぎわっていた。
公園の一角に退魔組合と書かれた看板にテントが設置されている。
今までにないくらい厳戒態勢だ。
すげー話だよな。
たった一人のエセ魔法使いのために、来られる奴ら全員を呼んだ。
さすがに数は絞ったらしいけど、テントの人数はいつもより多い。
こんなことになるなんてね。
とてもじゃないが、信じられない光景だ。こんなことがあるんだな。
コートじゃなくて、イベント用のシャツを着てチラシを配っている。
いつもは私服で、一般人に紛れ込んでいた。
「いつにもまして目つきが悪いな、お前」
風太君に肩をたたかれる。同じようにイベントのシャツを着ている。
「俺は感動してただけなんだけど。
イベントの警備は毎年、依頼は来るけど参加人数は限られるからさ。
組合全体ってなると、そんなに大きなこともできないし」
必要最低限の人数で見回って、それで終わる。
トラブルの仲裁に入るくらいで、大きな事故もなかった。
何も起きないことを祈りながら、歩き回るだけだった。
「なんかスゲー不思議な感じ。おもしろそうなことが起きそうっていうかさ」
「ワクワクするってこと?」
「それだ。あまりにもひさしぶりすぎて、何も出てこなかった」
「なら、いいんじゃないか? 楽しめばいいじゃん」
「その言葉もいつぶりかな。なんかもう、すっかり忘れちゃってたな。
そうだな、調子乗らない程度に楽しめばいいんだな」
「そういうこと! 一番前で見るんだからさ、頼んだよ」
「だな、今日くらいは肩の力を抜いてみるか」
まあ、ヤバいことになったら切り替えられる程度に気楽にやるか。
おもしろいことを潰されたら、ここにいる全員を敵に回すことになる。
それを防ぐためにも、仕事はしないとね。
「我を忘れない程度に! 楽しんで! 仕事して! お願いだから!」
ステラさんが電話しながら机を叩く。
ジルさんも一緒にいて、鬼のような顔をしてパソコンに向かっている。
「ステラさん、なんかあったんですか?」
「そりゃあ、これだけいろいろ手を回したんだ。
餌は散々撒いたんだろ? なら、針に引っかかってくれないと!
すべてが最初からになっちゃうから!」
「切実だな……なんか言われたんですか?」
「現場に来られなかった奴と他の団体から苦情と嫌味が一気に飛んできてるんだ。
魔法使いなんかと一緒にいられるかと、チクチク言われまくってる。
あと、演者を巻き込むなとか、それっぽいことを言われてる」
「チクチクどころの騒ぎじゃないでしょ、それ。
それはそれで、運営に文句を言った方がいいのでは」
「無理を言っちゃった手前、強めに出られないんだよ。
じゃあ、後は頼んだ。こっちはいろいろ忙しいから」
ジルさんが無言でチラシの山を置いて行く。
いつもの宣伝用のチラシの他に、今回のイベントのチラシもある。
「なんか倍くらい増えていませんかね」
「そんなこと言わない。ほら、友達のために頑張ってね。
私は手が離せないから」
それぞれ大なり小なり塊を持っていく。
「いつもこんなもんだと思うけどね。
あと、いろいろ言われると思うけど、全部ガン無視していいから」
これ、風太君の宣伝も兼ねてるわけか。
どうりで仕事が増えているわけだ。
「文句ばっか言ってないで、配ってきなさい。まだまだあるんだから」
「了解です」
はりきってるなあ、いつもより多く頼んだのか。
ステージの時間ぎりぎりまで見回りつつ、これを配る。
「カイト、笑わなくていいから。ちゃんと宣伝してくれな」
「頑張ってみる。いつも紙を配るだけで終わってたからさ」
「それ、意味ないから。頼むよ」
「分かったよ、ちゃんとやるってば」
笑顔でめっちゃ釘を刺してくる。
ステージの時間、演目を重点的に伝える。
本人に気づいたのか、たまに話しかけている。
悪意はないように思う。
「おー、仕事してるじゃん」
手渡した先で、シェフィ君がチラシを見ている。
派手な髪色に合わせたよく分からない服を着ている。
どこで売ってるんだ、その服。
「あれ、先生? 何しに来たんですか」
「俺は教え子の晴れ舞台を見に来たんですけど」
「本音は?」
「武器商人のガラクタを使いこなしてたって聞いたので、見に来ました」
そんなことだろうと思った。
「魔法具はウチらに回されることはなかったけど、相談は何回か持ち掛けられたからさ。いろいろやってみたけど、誰も解決できなかったんですよ。
あの大先輩も匙を投げたくらいだから、どうやったんだろうって思って」
「へえ、悪魔でも使えなかったのか。それは初めて聞いた」
「なので、何気に異形の間でも注目度が高まってるんですよ。
悪さしないように一応、見張りながら遊んでるから。
何かあったら、俺も本気を出しますので。よろしくです」
「控えめにお願いしますよ。後処理するのはウチらなんだから」
ひらひらと手を振って、露店のほうに向かっていった。
「あーあ、悪魔を敵にまわしちゃったか。悪だくみした奴の命が危ないな」
「今の話、本当なのか?」
そういえば、ちゃんと話したことはなかったんだっけ。
「悪魔は契約しないと人間を使えない以上、嘘はつけないから全部本当だよ。
俺も今の話は初めて聞いたけど、多分本当じゃないかな」
「どれだけ困らせれば気が済むんだよ、あの人たち」
「失敗作の上にウチらが今使っている武器があるから、文句もあまり言えないけどね」
動画投稿者に絡まれたり、流れ星の魔法、花びらの魔法、この前の訓練所にいた魔法使いからも声をかけられる。思っている以上に人気がある。
ステージの時間は刻一刻と迫ってくる。
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