Day13-2 魔法の道具


流れ落ちる星屑、風に乗る花びら、おもちゃ箱が一斉に解放される。

ギャラリーが確実に増えている。

部屋をのぞいて勝手に入ってくるようになり、追い出すのも面倒だから放っておいたらこれだ。


アレは敵情視察じゃないな。本当にただの野次馬だ。

おもちゃ箱でずっと遊ぶ魔法使いにしか見えないのか。

俺はこれをずっと見ていたんだよな。


時間終了のブザーが鳴る。

歓声とヤジとその他様々、とにかく黄色い声が響く。


「なんか俺の時より盛り上がってない? 腹立つなー」


道具を片付けてチラシを配っている。

こういうときでも宣伝を忘れない。

実に商魂がたくましいな。


「今度、イベントやるのでよかったら来てください。

いろいろ協力してもらってるんで」


「マジすか! 絶対に行きます!」


偉いな、地道な宣伝でファンを増やすんだな。

宣伝したところで仕事が増えるだけだから、いらないかもしれない。


「へえ、ウチが出したゴミをこんなふうに扱うの? 本当にすごい人たちねえ。

これはちょっと思いつかなかったわ」


「とうとうゴミって言いましたね、あなた。

そうやって他のところにも失敗作を押し付けてるんですか?

武器商人が聞いて呆れるな」


倉庫にあった道具を大人二人がしゃがんで、見聞している。

おもちゃを手に取って真剣な顔で見ている。


渋い顔を浮かべているエルさん、隣の派手なメイクの女性は見たことあるけど、名前は知らない。武器商人だったはずだ。

白衣で金髪、意外そうな顔で道具を見ている。


しかし、その言い草はなんなんだ。

自分たちで持ってきておいてそれかよ。


「俺たちも困ってるんですよ。

遊ぶにしても危険すぎるし、余興で使っても全然おもしろくないし、かなり持て余してるんです。子どもを知らない人か専門家の指導を受けずに作ったんでしょう、そのあたりはどうなんです?」


「あなたも言うわねえ。それはまちがいないけど」


エルさんが若干、怒っている。

確かにおもしろくねえもんな、あの道具。

どこも扱いに困っているし、タンスの肥やしになっている。


金髪の女性がこちらに気づく。


「初めまして。モモさんの後輩のカイトです。

ちゃんとあいさつしたことないなと思って」


「あらー……何度か見たことあるけど、話したことはなかったわね。

初めまして、武器商人のジルダです。

仲間があらゆる方面で大変ご迷惑をおかけしたようで、申し訳ないわね」


「全方面に謝罪したほうがいいと思いますよ。

誰もあの道具たちを使いこなせていないと思うので」


「あまりにもやらかしてるから、考えといたほうがいいかもしれないわね。

使えない道具を生み出してるのは、仕事のうちに入らないもの」


手で口元を押さえながら苦笑いする。


「モモちゃんから手が付けられないって何度も聞いたけど、これは納得だわ。

大変だったでしょう、お互いに」


会話するにしては距離が遠い。

じりじりと引いている気がする。


「そんな嫌がることないじゃないですか。何もしてないのに」


「あなたのことは何回か見たことあるのよ。

モモちゃんが捕まえてきたって聞いたから、女の子だとばかり思ってたの。

仕事で行ってみたら、ガラの悪い男子高校生がいるじゃない?

何事かと思ったわ」


「狩人たちのガラが悪いのは今に始まったことじゃないと思いますよ」


「それはそうなんだけど。

モモちゃんの周り、なぜか背の高い人ばかり集まるのよねー。

あの道具を扱っていた彼もそうでしょう?

すごいはすごいけど、アレはカッコいいの部類に入るじゃない」


風太君のほうを見て、向こうも気づいた。

おもちゃを片付けて、いくつかもらっていた。

方向性が決まったらしい。


「どうも、実は途中から見させてもらっていたんだ」


「どうも、こんにちは」


エルさんが会釈する。


「初めまして。あなた、本当にすごいわね。

私は武器商人で、これらは魔法使い用の武器を作っているうちに生まれた道具でね。

私もその作った者の一人なんだけど、全然使い道がなくて困ってたの」


「へえ、魔法の武器ですか」


「道具を作るのは自由だからね。武器以外にもいろいろ考えるのよ。

魔法って扱い方を学べば怖くありませんよって宣伝も兼ねてね。

ただ、子ども向けの魔法キットなんて科学実験より危ないからやめろってクレーム多くてねー。割と諦めてたんだけど、この路線ならイケるんじゃないかなって思ったの。一応、私も見に行くわね」


「風太君、騙されるな。

いいように言ってるけど、要はおもちゃを作るだけ作って押し付けた奴の一人だからな。とんでもない連中だよ、本当に」


「自分たちで作った物をゴミと言っている時点で、な」


「あー……確かにそれはいただけませんね」


「けど、事実だからしょうがないのよね。

道具の開発って本当に大変なんだから」


ほおをふくらませる。

いくら猫をかぶっても、本音を聴いたばかりだから、何を言われても印象は変わらない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る