Day13-1 魔法の道具

訓練所のギャラリーが明らかに増えている。

部屋をのぞきに来た魔法使いが俺を邪魔そうな目で見ている。

いつもなら何も言わずに部屋に入ってきて、記録を取るだけ取って帰っているのに。


「ハイハイ、狩人に何か用ですか。事務所じゃなくて俺のところに来た理由は何?」


「何か用っていうか……」


「何もないなら帰ってくれない? 

さっきからそういうのが多くてマジで邪魔なんだよね」


わざとらしく舌打ちをして去っていく。そんなのが何人も来た。

監視カメラがあるのに、何がしたいんだ。


「もしかして、思っている以上にヤバいことになってる……?」


風太くんのことに何人か気づいていたのがあっという間に広がった。

どこまで広がっているか分からないのが厄介なところだ。


他の魔法使いにとっては憧れで、一般人からしてみれば目の上のたんこぶってところか。


「なんかカラオケ屋で部屋をのぞいてくる馬鹿な学生みたいでおもしろいね。

監視カメラあるのに、何でそんなことやるんだか」


「……笑い事じゃないんだけどなあ、それ。

まあ、カイトがいるおかげで大分楽なんだけどさ。

俺だけだったら大変なことになってたかもしれない」


「出禁になってたかもね。それもそれで全然笑えないんだけど。

それで、どうよ。倉庫からいろいろ持ってきてみたんだけど」


武器商人からたまに試供品をいくつか渡される。

試供品という名の在庫処分品を掴まされることもある。


戦闘の際に使う道具ばかり選ぶから、使用用途が分からない道具を使うことはない。狩人同盟に加わる退魔師はすでにある程度の実力がある人ばかりだから、初心者向けのおもちゃみたいな道具を使うこともない。タンスの肥やしとなっていた。


初心者向けのおもちゃみたいな魔法具を片っ端から試している。

魔力を補う指輪、振ると星が出てくる杖、投げると花が咲くボールなど、探せばいくらでもあった。


「しかし、何でウチに持ってきたんだろうな。

なんかもっと違うところに持っていけばよかったのに」


「こういうのやらないのか?」


「どこもやらないと思うよ。個人なら話は変わってくるかもしれないけど。

一般市民の皆様からは遊んでないで真面目に仕事しろってクレームが来るしね。

退魔師は町中で暴れるバケモノを退治するヤベー奴らって思われてるし」


「すでに問い合わせが来てるのかよ、最悪だな」


「クレーム対応は専用の窓口があるけど、人の入れ替わりが激しいらしいね。

俺は電話が嫌いだからああいうのはマジで無理」


「だろうな。そんな感じするもん」


さらっと失礼なことを言われた気がした。


「どこも似たようなことで悩んでるんじゃないかな、多分。

特にウチらは武闘派で知られてるしさ。

ほら、人前で笑うときは挑発する時か追い詰められた時だから」


「人を守るためとはいえ、極端すぎないか。

楽しい時は笑っていいと思うんだけど」


「だから、エンタメができる魔法使いは貴重だって言ってんだよ。

こんなの誰にだってできると思ってるでしょ? 

違うんだな、これがまた。少なくとも、現職の退魔師には無理だ」


「そこまで言い切るか? こういうのをやりたい人だっていそうだけど」


「別に魔法使いじゃなくてもできるでしょ。

今なら動画投稿すればどうとでもなるっていう風潮あるじゃん」


「そういうのを短絡的だって言ってるんだよ。

動画を撮って人気になれたら誰も困ってないよ」


「そういうことだよ。現に風太くんは魔法使いじゃないでしょ?

さっきもそうだけど、カッコいいところが見たいから、うろちょろしてるんだよ」


杖を振って星を出して、それらをぶつけて、さらに細かな光が輝く。

風船みたいに膨らんだボールをいくつも割って、花びらが舞い散る。


使う人が違うとこうも輝くんだな。

遊んでいるようにしか見えないようにするのも技術なんだな。


「いや、ウチらにはできない使い方だな。

遊んでたらすぐにやられるし」


「遊んでる暇もなさそうだもんな」


「まあね。隙を見せちゃいけないお仕事なんで」


次々とおもちゃで魔法を披露する。

本当にカッコいいな。

気づかれないように何度もため息をついた。

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