Day12-2 傲慢
最初のストーカーも似たような感じだ。
目的が何であれ、中途半端に魔法が使えるからあんな馬鹿なことをした。
力に溺れるのは、使い慣れていないのとそれだけメンタルが弱いからだ。
エンタメの魔法が騙せないのは確かだ。
チープな魔法はすぐに壊れるから、化けの皮があっという間に剝がれる。
何より自分自身を騙さないといけない。絶対の自信と技術がないと成立しない。
「思っている以上にやる気だね。なんかもっとビビるかと思ったけど」
「だって、やられっぱなしってシンプルに腹立つじゃないですか。
狩人の人たちがいるなら、もっとすごいことができそうだし!
こんなに頼れることもそうそうないっていうかさ」
「嬉しいことを言ってくれるじゃん。これは期待に応えないね」
「……だから、そんな笑顔で言わないでよ。
なんというか、大分染まってきちゃったなあ。俺は悲しいよ」
「元々、その傾向はあったと思うんだけどねえ。
初対面のエルドレッド君にケンカを売る奴なんてそうそういないし。
やってることは君と大して変わらないよ?」
「そりゃそうかもしれないけど。本当にお願いだから、危ないことだけはしないで。
変なことをしたら守れなくなるから」
「変なことも何もいつも通りにやるだけじゃないのか?」
これはもう駄目だ。なんかもう、変なテンションになっている。
ようやく変な人たちから解放されるからか?
明らかに舞い上がっている。
「落ち着いて考えてみてよ、自分が囮になるんだよ?
最悪、ケガだけじゃすまされないかもしれないのに。
その場のノリと勢いでごまかそうとしてない?」
「そこは指一本触れさせないように頑張る、とかじゃないのか?」
「そうだよ、本人がそう言ってるんだから覚悟を決めないと」
「アンタが変なことを言い出さなかったら、こんなことにはなってないんですよ」
まさかとは思うが、本格的にウチに引き込もうとしているのか。
生半可な魔法使いよりメンタルは強いかもしれないけども、どうなんだろうな。
その場の空気に押し切られているところはあるかもしれない。
「さて、ファンは多いとはいえ、やっぱり個人の事情だと動けないからさ。
味方を増やすためにもちゃんとした作戦を立てようか。
人数が多ければ多いほど、おもしろいことができると思うし」
「実際、どのくらいいるんですか?」
だーれも俺の話を聞いていないんだな。こうなったら誰にも止められない。
モモさん、何でこういうときに限っていないのかな。
いや、絶対に反対されるのが分かっているから、いない時を狙ってるんだな。
風太君が参加するイベントに来るであろう非力で傲慢な一般人を捕まえるためだ。
捜査し尽くしたから、彼らが来るのは分かっている。
何をするつもりなのかは分からない。
悪意でもってイベントを妨害したら、普通に警察を呼べば対応してくれる。
魔法があるから、ややこしくなっているだけだ。
月末って言ってたっけ。その時のイベントに警備として紛れ込み、犯人を捕まえる。
怪しいことをしている奴はすぐに分かる。仕事としては簡単な部類だ。
一歩を踏み出せないのは、友達を巻き込むからか。
しかも、自分から囮になるって言ってるんだから敵わない。
「そこまで話が進んじゃったら、一肌脱ぐしかないじゃん。俺も死ぬ気でやるしかないし。もうどこにでも着いていくよ」
「お、ようやく乗ってくれたな。頑張ろうぜ」
ハイタッチする。さて、もう逃げられないぞ。
イベント中はずっと見張っていることになるんだろうし。
何があってもいいようにいろいろ準備しないと。
「そういえば、控室に他の人って入れるのかな。後で確認するか」
「どういうこと?」
「興味ない? 風間花野井になる瞬間」
「そこまで言われるとは思ってもなかったな。
当日はどうなるんだろうね、想像もつかないや」
魔法みたいに変身するから、本当にえげつない。
魔法使いだってそんなことをやらないのに。
「なあ、シェフィ先生も呼んだらいいんじゃないか?」
「えー? あの先生、中立派だからさ。
ウチらの仕事に協力してくれた覚えがないんだよな」
「あの先生、人間の裏側を見たいんだろ? いい機会だと思うけど」
「そういうことなら、匂いを嗅ぎつけて勝手にやってくるよ。
何なら他の悪魔も来ちゃうかもしれないし」
それが一番まずいんだよなあ。
他に問題を起こされたら、対応できなくなる。
「あとで訓練所に行くかい?」
「もちろん」
他の狩人を巻き込むために、ステラさんが必死に呼び込んでいる。
これは思っている以上に規模が大きくなりそうだ。
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