Day12-1 傲慢

「さて、嫌がらせの犯人は見つかったし、証拠もある。捕まえるだけ、なんだけど」


「だけど?」


狩人同盟シオケムリ支部。バケモノや魔法に関する困りごとならお任せあれ。

専門家である退魔師がどんな事件でも解決します。


色々ありすぎて、すっかり忘れていた。

風太君のストーカーから始まり、そこから嫌がらせの件にたどり着いて、ウチらが解決することになったんだった。


事務所で今後の対策を立てていた。ステラさんが話を区切る。

いつもならさっさと行動しているのに、今回はやけにもったいぶっている。


「被害者ヅラしてんのも、おもしろくないんじゃないかなって思ってさ。

ここらで一丁、徹底的に叩き潰しておいたほうが今後のためにもいいんじゃないかなと」


「相手のことは分かっているんですか?」


書類を取り出し、並べる。

嫌がらせの犯人なんて、数日もあれば捕まっている。

顔写真から経歴まで詳細な情報が書かれている。


「彼らはちょっと魔法が使えるだけの一般人たち。

皮肉なことに、君の同業者も何人か引っかかった。

意外なところで、弱みを握ることができたというわけだ。

ただの嫉妬ややっかみなんだけど、これがまーた面倒くさいね」


「まあ、まだ届いますからね。飽きもせずに」


「一般人たち? 魔法使いはいなかったんですか?」


俺は思わず聞き返した。

同業者に魔法使いがいるとばかり思っていた。


「そう、見事に一般人しかいなかったんだよね。

魔法を少しかじっただけで同等になれると思う馬鹿が大勢いるってことがこれで証明されちゃったわけだ」


「じゃあ、この前、持ってこさせたプレゼントとかは?」


表情が一気に曇る。


「……もちろん、違法な道具もあった。

本物の魔法使いがやったと思いたくないような、とんでもない道具がいくつもあった。

マジでヤバい奴はこっちで預からせてもらって、いろいろ調査したいんだけど。

正直、見ないほうがいいと思うね。俺は耐え切れなかったから」


ステラさんが手で口を押さえ、せき込む。

行き過ぎた感情が暴走したものなんて、正気がいくらあっても足りない。

直接触れて捜査しようものなら、なおさらだ。


「どうしたらいいんですかね、実はちゃんと中身を見られていなくて」


「見たい?」


「一周回って興味が出てきました」


「好奇心は猫だけじゃなく全て殺すんだよ、知ってた?

ウチらはそういうヤツらを何人も見ているんだから」


「むしろ、開封しなくてよかったかもしれないね。

今度からカイトに窓口をやらせよう、そうしよう」


ステラさんが咳払いをする。

この前の荷物検査であれだけ渡そうとしてきたんだ。普段はもっとひどいのかもしれない。


「さんざん言ってるけど、親衛隊がやっぱり必要なんだって。

この際、ウチらでやればいいじゃん。後ろ盾があるのとないのとじゃ大違いだよ」


「へえ、めずらしく話が合うね。どうしたの、急に」


「カイトはともかくとして、何でそんなやる気なんですか」


「そういう仕事があったらやってみたいもん。

SNSの中の人とかおもしろそうじゃない?」


風太君は頭を抱えている。ステラさんはまともだと思ったのかな。

今日のTシャツには『1d100回目の正気度ロール症候群』と書いてあるのに。


「何を考えていたにしろ、魔法使いに見られてたってことですか?

イベントって出入り自由だし、可能性はゼロじゃないですけど」


「そういうことになるね。やっぱりさ、本物の魔法使いは基本的にリスペクトしてるんだよ。

エンタメって難しいし、そう簡単に騙せないからさ。

あとは、まあ、ガチのファンがちらほらいる感じかな」


「それに関してはマジでごめん。

いくら謝っても足りないくらいだ」


そういえば、モモさんも言ってたな。

実際のところ、何人いるんだろうか。


「もうキリがないじゃないですか、そんなの」


「だから、悪い芽が出る前に種を潰したほうがいいんじゃない? 多少待遇はマシになるかもしれない。敵は増えるだろうけど」


「プラスになってないんだよな、それ。

すぐ過激なことを考えるんだから、そういうのよくないですよ」


「けど、それがウチらのカラーだしね。花澤くんはどう思う?」


「別に乗らなくていいからね、本当に何やらかすか分からないんだから」


正直、ステラさんが何を考えているのか見当もつかない。


ただ、とんでもないことを企んでいる。

だって、すでにうっすら笑っているんだもん。


「俺が囮になってなんかやるってことですか? なんか作戦とかあるんですか?」


風太君の答えを聞いて、ステラさんは勝ち誇ったように笑った。

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