Day11 視線


「アイツ、花澤のほうを見て足を止めてるよね?」


モモは昨日の訓練所の動画を何度もしては再生して、何度も同じシーンを確認する。

カイトの視線が一瞬、外に向いて動きが止まっている。


何らかの理由で足をとめたから、頭を叩きつけるスキが生まれた。

その動きに違和感を覚えた。視線が入口の方に向いている。


彼が来ていたのは知っていた。大人しくしていたから、何も言わなかった。

何らかの影響を与えているのはまちがいない。


「そんなに気になるかい?」


「だって、こんなの一度もなかったじゃない。

アンタは最初から見てたんでしょ、どうだったの」


ステラは動画を覗き込む。


「カイトに呼ばれたらしいけどね。

多分、なんかきっかけが欲しかったんじゃないかなって思うけど」


きっかけか。ここぞというときにビビって逃げるのは誰に似たんだか。

本当に嫌になる。


「あの後、どうなったんだろうね。一応、釘は刺しといたけど」


「ま、どうとでもなるよ。ウチらが気にすることじゃない。

モモはどう思う。俺はウチに引き入れちゃってもいいと思う。

情けない話だけど、一番懐いてるし。もちろん、彼の意思次第だけど」


「花澤を狩人にするって言ってんの? 教育するのはアタシなんだけど?」


「まあ、まだ学生だしさ。いろいろ考えるうちに、変わるかもしれないし。

あくまで仮定の話だよ」


本気にされたらたまったもんじゃない。

この世界に立ち入れないようにしていたのに、何でこうも噛み合わない。


「……もしかしたら、たまたまタイミングが合わなかっただけかもよ。

もう一度、アイツを呼んでやってみないと」


「あれだけやりあっていて、タイミングが合わないなんてことあるかな」


「あるかもしれないから言ってんの。

偶然だったらどうすんの? アンタ責任とれる?」


「俺は無理」


「でしょ? アタシも限界だから、念のためにやるって言ってんの」


これがただの偶然だったら、本当にどうすればいい。いよいよ打つ手がなくなる。

友達として認識して立ち止まったなら、そこに希望がある。試してみるしかない。


早速、あの二人を訓練所に呼び出した。

講義があるだのなんだのと文句を言いつつ来た。


「モモさん、マジ元気ですね。

俺なんてもうバッキバキに心折られて死ぬかと思ったのに」


「ずっと手加減せずに動き回るからでしょ。

ほら、位置に着きなさい。花澤はこっちに来るな。危ないから」


「了解です」


慌ててステラの横に向かう。ホイッスルが響く。


さて、カイトとは何十回もやっているから、何をしてくるかは想像がつく。

一瞬のスキをついて、決定的な一打を叩きこんで、動きを止める。

それの繰り返しだ。


ただ、とどめの一撃が毎回難しくなっている。

動きに慣れてしまっていること、レスポンスが早くなっていること、単純に力が強くなっていること、要因はいくらでも考えられる。


今日はどうだ。あの暗い目に少しだけ生気が戻っている。

どうやら、いい影響を受けているらしい。


そういえば、ほんの少しだけ雰囲気が柔らかくなった気がする。

相変わらず、何を考えているのか分からないけど。


何度か視線を花澤に向けているのが気になる。

足が止まることはないが、友達がいると落ち着かないのだろうか。

こちらが気が散ってしょうがない。


「中止中止! ストップ! 止まれ!」


「え?」


まぬけな顔で動きを止める。

どれだけ言っても止まらなかったのに、ようやく人の話を聞いた。

本当に何かがどうにかなっているのかもしれない。


「ねえ! アンタ何考えてんの? 

ずーっとあっちのほうを見ててさ、そんなに気になるの?」


「え? そんなつもりはなかったんですけど……」


「アタシとの訓練よりアイツといたほうが楽しいってこと? 

へえ、それはよかったね。友達できて、楽しそうで何よりじゃない。

じゃ、コイツはアンタに預けるから。

花澤、よろしく頼んだ」


困ったようにアタシと花澤のほうを見る。

自分でも気づいていないのか。これはどうしようもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る