Day10 独白
一瞬、視界に風太君が映った。
いつからそこにいたのか、何で一番前で見てるのとか、いろいろ疑問が浮かんだ。
自分で呼んでおいて忘れるとかマジなんなのとも思った。
後で聞こうと思って足をとめてしまったから、頭を地面に叩きつけられた。
笛の音が響いて、その次の記憶は医務室だ。
目も開けられないくらい頭が痛いのに、いきなり挙手とか言われたから、つい手を上げてしまった。
結局、なんて言ってたんだっけ。聞き取れなかったな。
その後は、モモさんとの訓練のことと目のことを話した。
目はどうしたらいいか、分からない。分からないまま、ここまで来てしまった。
風太君は表情一つ変えず、真剣に聞いていた。
なんか『そんなの最初から知ってましたたけど?』って言いたそうにしてたな。
何様のつもりだよ。本当に。
昨日からずっと俺の話を聞きたがっていた。
そりゃ、あんな言い方をされたら誰だって気になるよなー……。
誰もちゃんと言わないから、すげえ困らせちゃったし。
俺から話すべきことなんだろうけど、どこから話せばいいのか分からない。
何を話せばいいんだ。全部ぐっしゃぐしゃだから、自分でも分からない。
とりあえず、話せるところから話したほうがいいと思って、訓練所に呼んだんだ。
そうだ、『逃げ回ってるのが許せない』って言われたんだった。
風太君が笑っているのを見るのが好きだったから、それを守っていればいいと思っていたのに。
向こうはどう思ってたのかな。あの感じだと相当イライラしてたんだろうな。
何もかもが怖いからずっと逃げてた。
自分の目も怖くて、どこにいても落ち着かない。
どこに行っても寝られなくて困っていた。
生きるだけで精一杯で、昔のことなんて何も覚えていない。
感情なんて死んでいたと思っていたから、涙も出てこなくなった。
これじゃあ死んだも同然だ。
そう思って話しているうちに自然と涙がこぼれていた。
何であんな必死に肩を掴んじゃったんだろう。
そう簡単にいなくならないのは分かっているのに。
『止まっても誰も怒らないよ』なんて言われたのも初めてだった。
本当に意味が分からなかったから、顔を見たんだ。
風太君は俺の顔を見て、ほっとしたように笑っていた。
俺の名前を呼んで、頭を手を置いて、撫でてくれた。意味が分からない。
「今度は俺が頑張るから」ってそう言っていた。
ずっと守らないといけないと思っていたのに、もう大丈夫だって言っていた。
何度も思うけど、本当に敵わない。
いつのまにか、元気になってるんだもんなあ。
一緒にいれば怖くない、か。
本当にそうかもしれない。
そう思うと、ふっと軽くなった感じがした。
力が入らなくて、そのまま膝の上に倒れこんだ。
また涙が止まらなくなって、そのあとはずっと泣き続けた。
自分でもどうすればいいか分からない。
分からないまま、ここまで来てしまった。
子どもみたいに声を上げて、ずっと泣いていたんだ。死んでいたと思っていたいろんなものが、あふれかえっていた。
風太君がここにいるのは分かっていた。
頭に手を置いて、何も言わずに優しく撫でていた。落ち着くまでずっといてくれた。
「ねえ、風太君」
「なんだよ、カイト」
「本当にありがとう。
友達になれてよかった」
「そっか。俺もだよ」
それだけでなんか安心した。
その後は家まで送ってくれた。部屋の番号を聞かれたから答えて、それで終わった。
なんか疲れちゃって、そのままベッドで寝たら朝だった。
「……いろいろあったな、昨日は」
目覚まし時計を叩いて、天井を眺める。
薄くぼんやりとした部屋、俺以外誰もいない。
生活音がしないから、生きている心地がしない。
目覚めと共に出てくる呪いの言葉は、今日は出てこなかった。
「起きるか」
今日は特になし。
普通に講義を受けて帰るだけだ。
今日は多分、大丈夫。
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