Day9-1 パンドラボックス
訓練所に行くと、モモさんと一緒に部屋にいるらしい。
先輩と後輩で何をやっているのか。
ドアを開けると、ギャラリーが一斉に振り向いた。
コートを着ているのが狩人で、他は何だ。
とにかく、部外者が大勢いる。
この前の赤毛の人はいないみたいだけど。
「来い! 手ェ抜いてんじゃねえ!」
「言われなくてもやってんだよ!」
部屋の中央でモモさんとカイトが戦っている。
ただひたすらに、殴り合っている。
飛び交う怒号とそれに対して返事をして、また飛び掛かる。
バチバチと綺麗にハマるパズルみたいだ。
「おーい、こっちに来てよ。アウェーでやりづらいでしょ」
サングラスのステラさんが手を振っている。
よかった、知り合いがいた。
「どうしたの? またなんかあった?」
「いや、昨日、アイツに見に来てって言われたんです」
「へえ、そういうことを言うようになったんだね。
まあ、邪魔さえしなければ何しててもいいから」
「ありがとうございます」
さて、まだ二回しか会ったことがないんだよな。
会話が思いつかない。
「何でこんなに人が多いんですか」
「あの二人が訓練するといつもこんな感じだよ。敵情視察ってところかな。
どこから見つけてくるんだか知らないけど、おもしろ半分で見にくるんだ」
これのどこが大したものじゃないんだ。
いつもの目に鈍い光が灯っている。
あのまま放っておいたら、とんでもないことになる気がする。
「いいんですか、こんなに部外者がいて」
「ウチらもたまに偵察させてもらってるし、文句は言えないよ。
本人たちは一切気にしてないし、いいんじゃない?」
こんなに人がいて、なんかやりづらそうだな。
見世物じゃないはずなんだけど。
ヤジを飛ばさず、固唾を飲んで見守っている。
イベントに来る客よりマナーはいいのかもしれない。
「アイツはモモが見つけてきたんだけどさ。
正直、とんでもねーのが来たなって思ったよ。
話は聞けないしすぐ噛み付くし迷子になるし……なんか生きてるほうが不思議だったね」
「そんなひどかったんですか」
「これでも改善したほうなんだけどね。ようやく会話もできるようになったし。
決してバカじゃないんだけど、やっぱり扱いづらいのは変わりないというか」
「心を開いてくれませんか」
殴り合いが続く。たまに足技が放たれるも、それもパズルのピースに過ぎない。
お互いに吠えて、それに応えて、息はとにかく合っている。
「ウチらは拾ったときから知ってるからいいんだけど。
あんな感じだから、初対面の人には必ず誤解されるし、謝るけど訂正しないし。
だから、表に出していいもんか困ってる」
「いろいろと足りてないってことですか」
「それを補うための学生生活でもあるんだけどね。
だから、ウチらとしては君にアイツの補助をお願いしたいわけさ」
「とうとう外堀から埋めに来ましたね、怖いなあ」
「俺はアイツがこのまま卒業するほうが怖いけどね。
講習会にも行ったんでしょ? 進路の一つとして、考えておいてくれると嬉しいかな」
誰にも言ってないはずなんだけど、あの先生が報告してるのかな。
カイトは一瞬、こちらに視線を向ける。
俺に気づいたのか、足をとめる。その瞬間、モモさんは頭を地面に叩きつけた。
ステラさんはホイッスルを吹いて、二人に駆け寄る。
俺もその後を追いかける。
モモさんはその場に座り込み、肩で息をしている。
「はいはいはい! もうこれで終わり!
これ以上見せるもんねえんだから帰れ、暇人どもが!」
ギャラリーがぱらぱらと部屋を出て行く。
カイトは目を回しており、額に血がにじんでいる。
そのまま担架に乗せられ、救護室に運ばれた。
「あんのっ……バカが! 加減しろって言ってんのに!
何で分からないの! これじゃあ、誰にも止められなくなる!」
「モモ、友達が来てんだから落ち着いてくれない?」
俺を一瞬だけ見て、息をついた。
「……アンタに任せる。アタシは無理」
「え、いきなり言われても」
「アンタねえ、どっから見てたのか知らないけど分かるでしょ!
今のアイツと会話なんぞできるかァ!」
「モモ、君も喋れる状況じゃないでしょ。さっさと部屋を出て帰りなさい」
ゆっくりと立ち上がる。
「今後、どうするかはアンタに任せる。あんなのに付き合うことないと思うし。
これ以上一緒にいたら、人生を棒に振るだろうし。それじゃ、アタシは帰る」
部屋を出て行ってしまった。
救護室にいるんだったか。そっちに行かないと。
「俺、ちょっと様子見てきます」
「よく話し合ってきなね」
言われるまでもない。そのつもりで来たんだ。
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