Day8-2 講習会
『そういうわけで、我々は大敗し、この世界を去ったのであります。
その後は皆様のご存じの通り、国際連合との協議の末に……』
先生は堅苦しい口調で延々と、ノンストップで語り続ける。
スクリーンに映し出されているのは、講義でもそのまま使っていると思われる資料だ。講義でもこんな調子だったら、途中で寝てるかもしれない。
いや、周りを見ると何人か寝てるんだよな。
退魔師に必要な講習会じゃなかったのか?
隣の奴はまあ、真面目に話を聞いている。
よかった。寝てたら絶交するところだった。
魔界は他の世界と違い、ネットの影響を受ける前に瓦解し、滅んだ。
いいことなのか悪いことなのか、よく分からない。女王を中心とした評議会があり、外から逃げてきた人たちを受け入れ、守り続けてきた。
それが終わった途端、守られていた人々は散り散りとなり、他国で問題になっている。それが今も続いていて、大変なことになっている。
異世界関係論とかぶるところはあるから、多少理解できる。
資料を斜め読みしながら聞いていたら、また鐘がなる。
「はい、お疲れ様でしたー。
質疑応答は後で受け付けるから、よろしく」
数名がぱらぱらと立ち上がり、先生に質問しに行った。
他は帰る準備をして、部屋を出て行った。
「どうだった、講習会」
隣のカイトがこちらを見る。
「何も頭に入ってこなかったな」
「寝なかっただけ偉いと思うよ。俺はこれで終わりなんだけど。
どうする、なんかいろいろ渡されたんでしょ?
ちゃんと見たほうがいいと思うんだけど」
あくびを噛み殺す。
自分から言っておいてアレだけど、いよいよ逃げ場がなくなってきた。
こうでもしないと、引き止められないしなあ。
「今日はお疲れ様でした。また受ける気になったら、ひと声かけてよ。
もうちょっと分かりやすくしとくから」
「常日頃からその努力をしてくださいよ」
「これでも一般向けに変えてるんだけどね。
じゃあ、また会ったらよろしくね」
荷物をまとめて、先生と別れる。
すっかり陽は落ちて、人の通りが増えている。
「ようやく終わったな。また呼び出してごめんな」
「本当だよ」
「じゃあ、今日は帰るか。
それは明日また持ってきてよ。
変なもんは渡してないと思うけど、念のために確認したいから」
「お前さあ、なんか逃げようとしてない?」
背を向けた途端、腕を掴んで引き止める。
「言えないことがあるんだよな? それなら気にしない。俺は待つよ。
ただ、このところお前にしか分からない話ばっかりされて気に入らないだけだから」
何を聞いてもはぐらかされてばかりだ。
答えがもらえない状況を何も思わないのか。どうなんだよ、お前は。
「……みんなが言ってたことを気にしてるんだ」
「大事にされてはいるけど、扱いに困ってるみたいだったしな。
何かあったのか本人に聞けって言ってたけど、お前は何も言わないし。このまま放っておいても逃げられるんだろうなって」
「困ったな、逃げてるつもりないんだけど」
「気になって夜しか眠れねえのよ、こっちは」
ゆっくり振り返り、ため息をついた。
「……敵わないなあ。本当に」
「何が?」
「使い潰したほうがいいって言われてんのも本当だよ。俺自身もそう思ってるし。
どうにかギリギリ生きてるってだけなんだよね」
泣きそうな顔で笑う。
「笑ってんじゃねえよ」
「それができたら困らない」
鏡があったら自分がどんな顔してるか、見せてやりたい。
掴んだ腕を振り払おうともしない。
ただ、そこにいるだけだ。
「ずっとこんな感じだったから、どうしたらいいのか俺にも分からない。
友達もいなかったから、こんなことを聞いてくる人もいなかったし。
けど、ただの質疑応答じゃ、お互いにスッキリできないと思う」
「まあ、そうだな」
バックグラウンドを知ったところで、何も分からないだろう。
曖昧な言葉じゃ解決しない。
「明日、訓練所に来てくれる? 元々、俺が使う予定だったし。
受付で俺の名前を言ってくれれば、部屋に通してもらえると思う」
「分かった」
「俺は戦うことしかできないから、大したもんは見せられないけど。
それでもいいなら、見に来て。その後、話を聞かせて」
「何の?」
「これ以上は俺も無理だから。じゃあね」
腕を振り切って雑踏に消えた。
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