Day8-1 講習会
訓練所以来、カイトはずっと黙り込んで考え込んでいる。
あれからも何度か使わせてもらっているけど、あまり楽しそうじゃない。
暗い目がより暗くなって、立ち入りづらくなっている。
まあ、あそこまでバチボコに言われるとは思っていなかったけど。
「狩人の人って容赦ないよな、あんなもんなの?」
「サラリーマンができなかった人間の集まりみたいなところあるしな。
現場で叩かれながら戦う感じだから、気は短くなるし口も達者になる。
男女関係なく、たくましくなっていくよ」
「サラリーマン……テントにいたスーツの人たちか?」
「アイツらは退魔百家っていうまた別の組織になるんだけどね。
規模としてはあそこが一番デカいから、新人はまずそこに入る。
俺みたいなのは、そもそも受け入れてくれないけどね」
「履歴書すら読まれずに落とされるってこと? どうしようもないじゃん」
「まあ、あの人たちはメンツを重んじるからねえ。
入れたとしても、結局ここに来てる気もするし」
モモさんと変なTシャツの人をなんとなく思い出す。
先輩だから少なくとも年上、社会人だよな。
全然そんなふうに見えなかたったな。
講習会は退魔組合が管理している会議室で行われる。
オフィス街の一角、隠されていない階段を上った先にあった。
「おー、ようやく来たんスね。
いつもギリギリまで放っておくから、余計仕事が増えてるんだけど。
余裕を持ってきてくれないと困るって、多分もう数えきれないくらい言ってるよね?」
カイトを見るなり、シェフィ先生がつかつかと近づいて書類を渡す。
こういうところでも人に教えているのか。
「あのですね、先生。一応、俺も学生なので、決して暇じゃなくてですね……」
「タナバタで仮眠しようとしてた奴が何か言ってる」
シェフィ先生の眉がぴくりと動き、口角が上がる。
目は笑っていない。一瞬にして、空気が凍り付いた。
カイトの表情は青ざめ、周りにいた人たちの表情が消える。
「……こうなったら大先輩に家まで来てもらったほうがいいんじゃない?
人を寝かしつけるのは得意だし、朝まで一緒にいてくれるよ。
あの人、なんだかんだ優しいからいろいろ面倒見てくれると思う。
そりゃあもう、ゆりかごから墓場まで電話帳より厚いサーヴィスが」
「どうにかするんで、それだけはマジで勘弁してください!
もう風太君に迷惑かけられないと思っていたところなのに!」
「まあ、さすがに冗談だけどね」
「その冗談が笑えないんですけど」
近況が分からないだけで、呼ぼうと思えば呼べるんだろうな。
あたりにいた人たちがそそくさと離れていく。よほどヤバい人なんだな。
「最強の魔法使い、ね」
「そうだね。俺の知る限り、あの人に勝てる魔法使いはいないと思う。
マジでやるんだったら、魔法以外のところをいろいろ考えないとだけど」
「そもそも、ケンカを売るなって話だけどね」
名前が出ただけで周囲の空気が変わる。
何をしたんだ、その人は。
「講習会に入る前に一応確認したいんだけど、マジで魔法使いやるんですか?
何もコイツに付き合うことないと思うんだけど」
「いや、俺は付き添いっていうか見学っていうか……魔法使いもロクに知らないっていうか。なんかそんなことになっちゃってるけど」
「言っておくけど、魔法使いも楽じゃないからね。
何やるんだか知らないけど、手続きはさっさと済ませちゃったほうが楽だから。
必要なものは全部渡しておくね」
次から次に書類を取り出し、クリアファイルにまとめる。
魔法の検査、初心者向けの講習、魔法使いと一般人のすみわけなど、必要そうなものを全部まとめてくれる。
「講習会の後に検査もあるけど、やる?
保険適用外だから、それなりにお金かかっちゃうけど」
「話を聞いてからもいいですか。今日はもう遅いので」
「いいよー。カイトと似たような空気感だし、素質はあると思う。
まあ、世界はとかく広いっスから!
いつもみたいな感じで、話を聞いてもらえたら嬉しいっスわ」
「シェフィ先生の講義は受けたことないんだけどな」
「俺の講義は一般人にはやってないからね。
この前は単位をあげないって言っちゃったけど、異世界関係論を頑張ったら考えとく。
それと、個人的な復讐だったら、いつでも請け負うから。よろしく」
「アンタらが絡むとシャレにならんからやめろ」
「大先輩よりマシっスよ? 俺はあそこまで過激じゃないし。
カイトさ、こっちからメールも出してんだけど、ちゃんと確認してる?
返信が遅いからさ、不安になるんだよね」
ジト目のシェフィ先生、カイトは視線が泳いでいる。
絶対に目を合わせられないんだろうな。
「進行の邪魔しなければ、見学でもなんでもしていいから。
好きなとこ座っててね〜」
チャイムが鳴り、シェフィ先生は手を振ってホワイトボードの前に立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます