Day7 呼応


そういえば、1日あればこの世界の片隅が分かるとかなんとか言っていたのはどこの誰だったか。自分の言ったことくらい、覚えておいてほしいもんだ。


例にもよってモモさんに呼び出され、仮眠室で寝る前にカイトを捕まえ、タナバタで飯を食べていた。食べさせていたといった方が正しいか。


今日も飲まず食わずでここに来ていて寝るつもりだったらしい。

何でそこまで面倒を見ないといけないんだ。


「お前さあ、俺を使い走りかなんかだと思ってない? 呼んだら来ると思ってんだろ?」


「そこはお互い様じゃない? そっちも電話して叩き起こしたじゃん」


それはそうだ。場所は分かっているし、呼べば来ると思ったからだ。

外はすっきりとした空が広がっていて、引きこもる気にもなれない。

喫茶店で仮眠するヤツの気が知れない。


「お前はさ、俺の知らない間に嫌がらせの件を解決してどうするつもりだったの」


「どうするもこうするもないよ。

ウチらと関係ないところで生きていてほしいだけだったし。

まあ、異世界関係論を受けている時点で無理なワケなんだけど」


「……退魔師になってほしくないわけ?」


「なるつもりなの?」


「ならないとお前が苦労するんだろうなって。

このままだとお前、マジで友達いなくなるよ」


カイトの瞳が大きく揺らぎ、両手で顔を覆う。


「正直な話、風太君を完全に誤解していたところはある。あそこまでポジティブだと思ってなかったしさ。切り替えが本当に早いよね。

退魔組合全体でそういうヒトを探してんだけど、なかなかいないんだよねー」


「俺はお前の私生活が心配だよ。ちゃんと飯を食え、家に帰って寝てくれ。

自分のことくらい自分でやってくれ」


「……善処します」


「それ、今日で何回目?」


「覚えてない」


「改善する気もねえのかよ、このアホ毛」


客のいない店で二人でクリームソーダを頼んで、ただ待っているだけだ。

店員はそれぞれの仕事をしている。


「もちろん、そういう検査はあるよ。うちでもやってるし。

そこまで言うなら受けてもいいと思うんだけど」


「なんだよ」


「モモさんが黙ってないだろうなって。

やりたくないでしょ、あんな面倒な仕事」


この前の荷物検査のことを言っているのだろうか。

アルバイトでも雇えばいいんだろうけど、そういうわけにもいかないらしい。


「別に気にしないよ。選べるもんでもないんでしょ」


「そりゃ、戦闘か捜査か調査か雑用のどれかなんだけどー……どれもやらせたくない。というか、マジでこっちに来てほしくないっていうか、戻れないかもよ。

魔法を知る前の一般人に」


「一般人の定義から外れてるとは思うんだけどな。俺もお前も」


頭を抱えて天を仰ぐ。


「口喧嘩じゃ勝てねー。無理だ」


「喧嘩のつもりだったのかよ、下手すぎんだろ」


いつの間にか、置かれていたクリームソーダを飲む。

何を気にしているんだか、さっぱり分からない。


「そういう意味でも、どのみち講習会は行ったほうがいいのかな。

ていうか、俺も受けないといけないのがあるんだった……もうこの際だし、見学する?」


「いいの?」


「もう俺が責任を持つよ。何を言ってもはいかイエスしか言わなさそうだし。

今から事務所で予約を取りに行くから、一緒に来て」


「いいよ」


そう答えると、また頭を抱えてうつむく。

目がグルグルと闇の中で渦巻いている。


「風太君って悩まないよね、あまり」


「悩んでもしょうがないっていうか……進める時は進んでおかないとな」


「それで無理してこの前みたいにぶっ壊れるわけだ。

そら、止める人が必要なワケだよ」


「お前は何を悩んでいるのさ」


「……無理してこっちの事情に付き合わせてるんじゃないかなって。

怖くないの、変な世界しか見せてないのに」


変な世界というのが分からない。

変な奴に付きまとわれるのはいつものことだし、魔法のことはよく分かってない。

好きでやっているつもりもないが、無理しているわけではないと思う。


「だから、気になってしょうがないんだろ。

外側ばかり見せられたら、中身が気になるし」


「そういうもんか? まあ、怖くないならいいや」


カイトはすっと立ち上がった。

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