Day5-2 魔法騎士


あーでもないしこーでもないと考えている間に、横から口を挟まれる。

関係ない外野からの声が一番うるさい。

何考えてんだか知らないけどさ、実に短絡的だ。笑っちゃうね。


それでも進むしかない。答えがないなら証明するしかない。

気がつくと、部屋に人が増えている。

サングラスの男が拍手しながら近づいてくる。


「へー! カイトが連れてきたっていうからぶっちゃけ期待してなかったけど、これはすごいわ。魔法使いじゃなくても嫉妬するよ」


「何ですか、あなた」


「ステラ、いきなり変なことを言って困らせるんじゃない。

とはいえ、カイトが一番嫌いそうなタイプの人種と思っていたんだが。

世の中、分からないものだな」


「褒めてんだか褒められてないんだか……よく分からないんですけど」


Tシャツには『パンドラボックスを叩いて壊す』と書いてある。

この人も退魔師か。なんかセンスが壊滅的だな。

サングラスの人はしばらく黙って手を叩く。


「あ、そっか。俺と会うのは初めてか!

こっちは君からもらった情報を探ってばかりだから、すっかり忘れてた!」


「誤解を生むような言い方しないでください。

アンタが嫌がらせしてるみたいになってるじゃないですか」


「いや、申し訳ない。君から預かった荷物を解析してる者で、ステラといいます。

狩人同盟で裏方を長いことやってます」


頭を下げる。

全員が全員、コートを着ているというわけでもないらしい。


「でね、カイトはモモからいろいろ叩き込まれた秘蔵っ子ってヤツ! なんだけど。

ハッキリ言ってメンタルは豆腐より脆いね! すぐ泣くし折れるし腐るしさ! 

最近になってようやく改善されてきたけど、まだ表には出せないよね」


「俺もそう思います。

まだ不安定さがあるというか、モモが強引すぎるというか……」


「もう何度も繰り返した話だけど、あそこで引っ張ってこれただけでも良かったことにしましょうよ。本免許もちゃんと取れたんだし、ここからですよ」


俺の知らない話をしている。

カイトは気まずそうに目をそらしている。


「花澤くんだっけ? ええカッコしい奴だけど、仲良くしてあげてくださいね」


「ええカッコしい、ですか。

まあ、そんな気はしてましたけど」


「そうですかね? 俺はモモとよく似て頑固でいじっぱりだと思ってたんですけど」


「そういうのも含めてええカッコしいんですよ。ね?」


「そんなこと言われても……」


なんかだいぶ可愛がられているみたいだな。

俺がいなくてもどうにかなっていたのでは、なんて思ってしまう。


「そうそう、いろいろ解析してたんだけどね。なかなか執着心のヤバい奴に目をつけられてるみたいでさ。マジでどうしようかって考えてたところなんだよね。

いや、捕まえるのは簡単なのよ。証拠もそろってるし。それまでにカイトに面倒見てもらうのもアリっちゃアリなんだけど」


「アイツは俺の知らない間に終わらせたいみたいですけど」


「それはちょっとズルいんじゃない? 自分だけ美味しいところを持って行って逃げるのはよくないねえ」


それはそうだ。このまま逃げられたら、割と許せないかもしれない。

この人に言っていることが正しいなら、アイツは何から逃げているんだ。


「ステラさん、無理してこっちに来させなくていいって。

何考えてるんですか、アンタ」


「魔法使いの悪意に一般人が巻き込まれることってよくあることだし、このまま捜査を続けてもいいんだけど。

君のことだから、あんな感じでまた喧嘩吹っ掛けるでしょ?

なら、ストッパー役が必要だろうなって思ってさ。気づいてないだけで意外と敵は多いんじゃないの?」


「別に俺は気にしていませんよ。カイトが間に入るとは思いませんでしたが」


「そこなんですよ。他の連中はさっさと使い潰せっていうけどさ、そんなブラックなことやってたら炎上するし、誰のためにもならないじゃない」


使い潰す。すぐに物騒な単語が飛び交うな、この人たちは。

しかし、アイツは何で何も言わないんだ。

否定も肯定もしない。ただ、黙っている。


「……まさか、裏切るとでも思ってるんですか?」


「申し訳ないけど、否定はできないね。アイツ、ああ見えてビビりだし。

誰に似たんだか知らんけど」


「本当によく似てますね。だから、放っておけなかったんでしょうけど」


「あの、さっきから何も分からないんですけど」


「それは本人から聞いてほしいかな。

俺らより心は開いてるみたいだし。

それじゃ、俺は戻るから」


「そうだな。二人ともあまり遅くならないように」


沈黙が下りる。

あの後はずっと黙ったまま、時間は過ぎて行った。

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