Day5-1 魔法騎士

ボウリング場の地下、魔法使いにしか見えないエレベーターで地下へ降りる。

訓練所は退魔師の管理下であれば、誰でも使用できる。


部屋の大きさは使用目的と時間で決まる。

ライセンスを見せると、専用の部屋へ通してくれる。


魔法は誰でも使える技術になった。そうは言っても、使いどころが困るのは確かだ。ヒーローも魔法少女も結局、バケモノ退治をする以上はライセンスがどうしても必要になる。


「しかし、いろんな人がいるんだな」


「退魔師志望の人はもちろん、ある日突然魔法を使えるようになった人、魔改造されて魔法使いになっちゃった人、いろいろいるよ」


「ある日突然って……そんなことあるのか?」


「魔法が開花する確率はとんでもなく低いけど、ありえなくはない。

向き不向きはあれど、学べる技術だし」


「俺も頑張ればいけるか?」


「頑張らなくていいよ! こっちの業界に来なくていいんだって!」


カラオケ屋みたいだ。ずらっと並んだ扉、スペースがあるようには思えない。カイトが鍵を開ける。

天井は高く、それなりに広い。

確かに夜中の公園よりはマシかもしれない。


「時間以外には絶対に来ないでね。

一般人がいるとかなり困ったことになるから」


「そもそも、あのエレベーターを見つけられる気がしないけどな。

それこそ、都市伝説にでもなってそうな場所だけど」


「訓練所はそこらじゅうにあるから、珍しいものでもないでしょ。

俺のことなんかマジで気にせず練習がんばってー」


「お前は何なんだよ」


あの夜からすべてがひっくり返った気がする。

まあ、いつものことか。

変なメッセージは未だに届いてるし、ストーカーの犯人は魔法とか使ってくるし、もう訳が分からない。


さて、次はいつだったか。月末だったかな。

そこに向けてどうにかやっていくしかない。

今はいい方向に転がっていくことを祈ろう。


「のいのい! 風間花野井です! どうぞ、よろしくです!」


1、2の3で飛び跳ねる。

結局、いつも通りにやるしかないしかないのである。




ノックが響き、ドアが開かれる。

音楽がバツっと切れる。


赤髪の背の高い男が部屋に入ってきた。

何のつもりでここに来たのだろうか。

俺たちを困ったようにじっと見まわしている。


「宇宙空間に放り投げられた猫みたいな顔してないで、なんか言ったらどうなんですか? そこのお兄さん」


「宇宙……お兄さん……?」


「利用規約には退魔師がいれば、魔法使いじゃなくてもここを使えるとありましたけど」


「それはそうだ。そうなんだが……」


「それとも、エセ魔法使いが偉そうにしてんじゃねえよって? そりゃそーでしょうね、俺とアンタたちとじゃ核が違うんだもん。手を伸ばしても届かないよ」


「ちょっと、風太くん⁉︎ 何言ってんの⁉︎」


「いや、俺はそんなつもりじゃ……」


「じゃあ、何だって言うんです? 魔法とかいうワケ分からんことやってるのはアンタたちだって同じじゃないですか」


「ストップ、ストップ! そんな笑顔でケンカを売らないで! 

この人はモモさんの彼氏で魔法騎士のエルさん! 悪い人じゃないから!」


カイトが間に割って入る。


「騎士?」


「あのカイトが挑発に乗らずにケンカの仲裁に入った? 

お前、いつの間にそんなことできるようになったんだ」


「そんなのいいからエルさんもなんか喋って! 余計誤解される!」


「なんか喋れと言われても……俺はエルドレッド。

退魔師で封印の騎士団に所属している。君はカイトの友達でいいのか?」


赤髪の人、エルドレッドが目頭を抑えている。

何がしたいんだ、この人。


「とにかく、状況を整理させてくれ。

人嫌いのカイトに友達ができたこと。ここに連れてきていること。

そして、君は何者なのか。俺が聞きたいのはこれだけだ」


「俺のこと言ってなかったのか、お前」


「部署が違うから、情報共有されないんだよ。

この人たちが追いかけてるのはカルト教団とかそういうのだしさ。

てか、友達できたら報告するもんなの?」


「連絡くらいしてもバチは当たらないだろう。本当に君は何者なんだ?」


「少なくとも、本名を知る気のない奴と仲良くする気はありませんかね」


「だから、そういうこと言わないで。悪い人じゃないんだって。

ちょっと天然ボケなだけだから」


「よく言われるな。もう諦めたが。

とりあえず、名刺を渡しておこう。部署違いとはいえ、何かの力になれるだろうし」


ライセンスを見せ、名刺を渡される。

封印の騎士団か。また違う団体だ。

テントにいたスーツの人たちとも違う。


「てか、モモさんの彼氏って言った? それ本当なの?」


「そういうところはきっちり聞いているんだな。

まあ、学生生活を楽しんでいるようでよかった。

友達もできないまま仕事を本格的に始めたらどうなっていたことか……いや、本当によかった。これで人嫌いも多少は克服できたか」


何度も嬉しそうにうなずいている。どういう立場の人なんだ。

上司の彼氏とそこまで仲良くなれるものなのか。


「お前、めっちゃ心配されてるじゃん。

今まで何やってたの、本当に」


「このまま野菜も克服できればいいな」


「それは関係ないでしょ。てか、何しに来たんですか」


「名簿に見知らぬ名前があったから、様子を見に来たんだ。

俺も見学させてもらっていいか? その手の魔法はちゃんと見たことがないんだ」


悪い人じゃないのは確かだし、素直な人だと思う。


「別にいいですけど、俺を魔法使いだと思ってるんですか?」


「ジャグリングとかいうワケ分からんことやっているのは君も同じだろう?」


「……生意気なこと言ってすみませんでした」


「いや、本当にね。いつもああやってんの? そりゃ敵だって増えるよ」


「イベント中にやったら炎上するだろ、あんなの。

いきなり話しかけてきた人にしかやってないよ」


エルドレッドさんはあきれた様にため息をついた。

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