Day6-1 悪魔
「あれ、カイトが勉強? めずらしー」
髪を黒とピンクのまだら模様にしている青年が空いている席に座る。
異世界関係論の復習をしていた。
隠されていた異世界がネットで暴露されてから、歯車が狂った。
ゲートは開かれ、異世界の住民たちが一気になだれ込んだ。
それがざっくり数十年前のことだ。
異世界自体は何千年も前から存在しており、隠されていた。
「へえ、あの人間嫌いが人に教えることもあるんスね。
それはすごい。モモちゃんには報告した?」
「……異界史概論で講師やってるシェフィールド君。元強欲の悪魔。関わらないほうがいいよ」
学生じゃなくて講師のほうだった。
見向きもせずにたった3フレーズで紹介が終わってしまった。
「初めまして。俺はシェフィールド。
これでも昔は、一国を回すくらい偉かったんスよ?」
「もう何からツッコめばいいのか分からないから一旦流す。
花澤風太です。異界史概論なんてあったっけ?」
「そりゃあ、ウチら向けの講義を普通の学生に受けさせるわけにはいかないからね。
住み分けはしないと」
「カイトと一緒にいるから退魔師志望かと思ったんだけど、違うの?」
「稀によくいるただのオカルト好き……なんだけど、訳あって護衛してまーす」
「あらぁ、今年も命知らずが来ちゃったんスね。注意喚起してるんだけどなあ。
人の話は聞いてくれないと困りますよ、花澤くん」
「分かりましたってば……オカルト好きはマイナスにならないんですってね。
むしろ、変な奴を余計に呼ぶだけだからやめろって言われました」
シェフィールド先生、でいいのか?
少し意外そうな顔でカイトをチラッと見て、真顔になる。
「その通りだよ。そこから変な陰謀論だのヤバいアイテムに手を出す奴が毎年必ず出てきて、大変なんスから。今期は見逃すけど、次からは単位あげないからね」
しっかり釘を刺してくる。
「あ、退魔師になるってんなら話は別ですよ?
何なら必須科目だし。俺の講義も受けてもらわないと」
「俺は歓迎してないの。なんかコイツに嫌がらせしてるのがいるみたいでさ。
こっちもこっちで大変なんだから」
「嫌がらせねー。カイトが君を泣かしたって噂が広まってるけど?」
「だから! 俺は何もしてないし、仕事しただけなのに!
てか、荷物検査をどうやって潜り抜けたのか! それが分からないんですよ!」
カイトは机を叩く。
「そりゃあ、隠す場所があるんじゃないんスかね?
木を隠すなら森の中ってよく言うじゃない」
ニヤニヤ笑う。魔法を隠すなら魔法の中か。
目の前に魔法みたいな人がいる。
「先生が隠し持ってるってこと?」
「3割正解。俺の倉庫の鍵を壊すバカがいてさ、そいつらが魔法の道具を隠してるみたいなんだ。講義で使う道具もいくつかパクられてる。
これの何がおもしろいってさあ、監視カメラに全然気づいてないんだよねえ。
愚かすぎてマジウケる」
「カメラがあるんだったら、犯人は分かるはずですよね?
何で捕まえないんですか?」
「そりゃあ、俺らは人間の味方ですから。
悪いことをしたらそれ相応の罰を受けるってこと、ちゃんと教えてあげないとね」
怖いことを言う。さすがは悪魔だ。
何かよからぬことを考えているようだ。
「あ、そうだ。モモちゃんから頼まれてたブツの調査が終わったから、それ渡しに来ました」
「あー、はいはい。いつもありがとうございます」
茶封筒を受け取り、カイトが頭を下げる。
人間の味方、対価を払えば難しいことをやってくれるのだろうか。
「ここ最近、何かおかしくない?」
「……やっぱりそう思う? この前の荷物検査といいさ、なんかヤバいことになってない? 何が起きてるの? 先生、なんか知らない?」
「こういう時ばっかり先生扱いされても困るんだけど。
なんか行方不明者も増えてるって話だしさ。
俺も調べてみるけど、大先輩が動きそうだったらすぐ連絡入れる」
「それはマジでありがたい。悪魔の手を借りなきゃならないほど困ってないと言いたいところだけど、アンタらは呼ばなくても勝手に来るんだもんな」
「特に大先輩はお人好しですからねえ。
昔から悪魔らしくないから困ったもんです」
「先生はどっちの立場なんだ?
人間を導きたいのか陥れたいのか、よく分からないんですけど」
シェフィールド先生はニヤリと口角を上げる。
「俺はどっちもやるんですよ。
失敗から学ぶのも堕落するのもその人次第っスから」
「放任主義もいい加減にしてくれ。
アンタが放ったらかしてるから、好き放題されるんだ」
「倉庫の件も証拠は集まってるから、渡そうと思えばいつでも渡せるんだけどね」
「今ここで渡してくださいよ、モモさんにも言っておくんで」
ここまでされて表沙汰にしないということは、撮れ高でも狙っているのだろうか。
敵にしたくない人ばかり増える。
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