Day2-2 魔法
午前中の荷物検査があらかた終わり、午後の担当と変わった。
本当に長かった。ようやく解放された。
何であんなに魔法が広がっているんだ?
学生をターゲットにしている業者がいるのか?
これまでの記録だと50人に1人くらい、魔法を使って悪さを企んでいた。
その時は厳重注意で終わっていたし、イタズラで終わるくらいのもんだった。
今日はどうだ。3人に1人は道具を持ち込んでいたじゃないか。
しかも、被害者まで出てしまった。
何が起きている。戦争でも始まろうとしているのか。
午後の講義は免除されてるけど、どうしたもんかな。
事務所に寄ってちょっと調べてみるか。
「露木くん、ちょうどいいところに来た!」
「は? え、ちょっと、人を盾にするな!」
花澤君が俺の背中に隠れ、がたがたと震えている。
バタバタと学生が十数人、後から追いかけてきた。
俺を見た途端、じりじりと後ずさりする。
「何であんたそんなとこにいんのよ!
荷物検査してたんじゃないの!」
「狩人⁉︎ そんなのと関わらないほうがいいよ!」
「ボディーガードのつもり? 何考えてんの?」
少しずつ人が集まり、騒ぎ始める。
他の学生からの視線が痛い。これだから退魔師は嫌なんだ。
何もしていないのに、世界を敵に回したような気分になる。
「出待ちされてた。助けて」
「電話してくれれば迎えに行ったのに」
「走りながらできるわけねえだろ!」
それはそうだ。本当に何が起きてんだか。
「えー……取り巻きの皆さん。全員、そこに直ってください。
今からここで抜き打ち検査! やるから!」
「何それ、聞いてないんだけど!」
「職権濫用! 帰れ!」
また騒ぎ始める。
野次馬も加わり、非常にまずいことになっている。
「全員黙れ! 用がある奴は並べ! 野次馬は帰れ!
今朝の荷物検査だってアンタらを守るためにやってんだよ!
変なことに巻き込まれても俺は知らん!」
数人は険悪な表情をして帰って行く。
嫌われるけど仕事はしないとなあ。
みんな嫌そうな顔をしつつも、整列し、荷物を渡す。
「堕天使の筆記具……これは偽物ですね。
偽ブランド品を掴まされただけだから、あまり気にしないように。
まあ、危険なことに変わりないからこれは回収するね」
「これは魔界スイカの香水?
何に使わせるつもりだったの? 没収」
「こんなもん大学に持ってくるな! 普通に没収!」
没収、没収、没収……次々と道具を差し押さえる。
朝も道具を回収したと思ったのに、どこから出てくるんだ。
こんなカツアゲみたいなことをしていたら、余計に印象が悪くなる。
十数名から集めた魔法道具をバッグに詰め込む。
「あのさあ、今朝の荷物検査を受けたはずだよね?
どこに隠してるの? どこから買ったの?
場合によっては後で事務所に来てもらうからね」
「別にいいでしょ! アンタには関係ないんだし!」
それはそうなんだけど。
何で余計に追い詰めるようなことするかね。
ようやく落ち着いたのか、背中から出てくる。
「あのさあ、もう帰ってくれないか?
専門家の先生もこう言ってるし、いきなり来られても困るから」
「先生って……」
「そういうことです。二度と魔法に手を出すな。
人を追いかけまわすな。気をつけて帰れよ」
荷物を没収された学生たちが俺をキッと睨みつけながら、ばらばらと散っていく。
本人が一言言えば、あっさり手を引いた。
最初からキツめに言っておけばよかったのに。
「花澤くんさあ、嫌なもんは嫌って言ったほうが楽になることもあるんだよ?
何でもかんでも貰ってたらキリがないって。すごい量だよ、これ」
「……はい、今度からハッキリ言います」
目に涙を浮かべ、しょぼんと頭を下げる。
「へ、いや、怒ってるわけじゃないからね。
被害者なのは分かってるし、こんな詐欺まがいのぼったくり価格かありえんくらい安い値段で買った変な道具を押し付ける方が悪いんだって!
てか、追いかけられてたんだろ? 話聞こうか?」
メガネを外し、両目をぬぐう。
「講義終わったらあんなに人が来てさ、追いかけ回されてさ。
もーやだ……帰っていい?」
涙があふれて止まらない。
電話してよと、無理を言った俺がバカだった。
「よし、分かった。一旦、テント行こう。
あそこなら大丈夫だから。怖かったな。あんなに人が来られても困るもんな。
今朝の件はまだ何も分からないと思うけど、人は来ないから。大丈夫だから」
うなずきながら、俺の腕にしがみつく。
ガチで泣いてるじゃん。どーすんのよ、これ。
絶対に後で噂になる。突き刺す視線を感じながら、早足でテントに向かう。
追いかけまわしていた理由が分からない。
取り上げられる前に渡そうと思ったのか?
結局、見つかっちゃってんだから、隠しても意味ないと思うんだけど。
「すみません、なんか隠し持ってる奴が大勢いたので没収してきました」
バッグを机に置くと軽く悲鳴が上がる。
花澤君は俺の腕を必死につかんでいる。俺の腕が折れる。
「……確か、今朝の生首の人ですよね? なんかあったんですか?」
「いや、ずっと追いかけられてたみたいで。
落ち着くまでここにいてもいいですか」
「まあ、モモさんもいないし。大丈夫じゃないですか?
お茶ならまだ余ってるんで。よかったら、それ飲んでください」
休憩スペースに座り、お茶を渡す。
なんか思っている以上にひどいことになってる。
何が起きてるってんだ、本当に。
「この忙しい時に迷惑かけてマジでごめん」
「いや、気にしないでいいって。こういうのも仕事なんだしさ。
心当たりはないんだよね?」
「常日頃もらってるわけねえだろ! 何ならレギュレーション違反だよ!」
「じゃあ、今日が異常なだけなのね?」
何のレギュレーションなのかは分からない。
昨日の今日だしな、しばらく安心はできない。
「何が起きてんだよ、今までこんなことなかったのに」
テーブルに顔を伏せる。
「落ち着いたら、気晴らしにどっか行くか?
俺、昼飯まだ食べてないんだよね」
すすり泣く音だけが響く。返事はなかった。
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