沢村伸吾の話 その1
石田の事は親友だと思っていた。
でもそれは違ったんだ。
あの野郎、俺を裏切りやがって。
俺たちが中学のとき、俺と石田はイジメの標的にされた。
野本はイジメグループの下っ端だった。上手く立ち回ったお陰で、被害を受けずにいたのだ。
俺と石田はクラスでは影が薄かったこともあって、イジメ連中の格好の的になったのだ。
どんな嫌がらせを受けても、二人だから耐えられた、そう思っていた。
でもある日、あいつの態度が変わった。急に俺を避けるようになったんだ。それと同時に、標的は俺一人になった。
クラスの誰も俺と口を聞こうとしない、そんなことには慣れてたけれど。石田はクラスに溶け込んでいた。俺を貶めることであいつはクラスの一員になったんだ。
簡単な話だ。あいつは俺を売ったんだ。
高校に進学すると、あいつは何食わぬ顔で俺に声をかけてきやがった。まるで何も無かったように。
俺は必死で取り繕ったさ。あんな思いはも後ゴメンだからな。
でもな。
無かったことにはなんねえよ。お前だけは許せない。絶対に復讐してやる、そう誓ったんだ。
だから、あの怪談を知った時、俺はチャンスだと思ったよ。
俺はさ、例の話を知ってたんだよ。
うちのじいさんは、市役所で働いていた。
もちろん例の木についての呪いのも知ってたんだよ。木でも葉でも、一本たりともあそこから持ち出した人間はみんな死んだんだ。
じいさんは、あそこには絶対近づくな、何かにつけてそう言ってたんだ。
時間が経てばそんなことは忘れられてしまう、なんであの祠が放置されているか、あの木はそのままになってるか、知ってるやつなんて殆どいないだろうな。
どうせ掲示板のやつらも適当な都市伝説程度にしか思ってなかっただろ。それは野本も石田も坂口も同じだ、どうせ本気にはしちゃいなかった。
だから俺はあの柏の木から枝を持ち出すことにした。そして、あいつの車の後部座席に隠したんだ。
まさか俺もあんなに早く効き目があるなんて思わなかったよ。
石田が死んだって聞いたとき、俺は笑いが止まらなかったさ。
野本がそれに気づいたのは誤算だったよ。しかも、俺を殺そうとするとは。
坂口がいなかったら危なかったよ。
あいつ、使えるな。
******
俺は葬儀の直前、石田の家に枝を回収しに向かったんだ。アレを持っている人間が死んでいく。そのままにしておくと周りの人間も死んでいくんだ。あいつと一緒にいた俺だって危ないかもしれないからな。
野本の車が家の前に停まっていたときは焦ったよ。玄関でゴソゴソやってたからさ、これはバレたと直感したよ。でもさ、そうだとしても、どうするつもりかまでは分からなかったよ。
まさか俺のカバンに枝を入れるなんてなあ。お前の反応に違和感はあったよ。俺は野本の動きを注意深く見てたんだ。もちろん、お焼香で席を立つ時も。
やりやがった、そう思ったよ。
その後のことだった。
葬儀が終わった後、野本達と話していたとき。坂口が妙な動きをしたのを俺は見逃さなかった。
──ああ、確かにおかしいよな。お前、枝はそのまま持って帰ったんだろ?
──ああ、もちろんだ。家にいけばみれるぜ、見ていくかい?
──もう、やめてよ、石田くんが死んだっていうのに…
坂口が泣きそうな顔で野本に縋り付いた。
その瞬間。何かを野本のポケットに忍び込ませたのを見た。
小さな小袋のようだった。
あいつ、何をした?そこで俺は思ったんだ。この話を聞かせたのは坂口だったよな。俺が知ってる坂口は、こんなオカルト染みた話が好きな女ではなかったはずだ。
そうだ、俺はじいちゃんが役所勤めだから知っていたけど、あいつだってうちの近くに古くから住んでる家の出だ。
確か、あいつんとこは広い土地を持ってて、このあたりでは取りまとめ役みたいなもんだったはずだ。
あいつひょっとして、この話、知ってたんじゃないか?それを俺達に聞かせたのには理由があるんじゃないか?
何か不審な点は無かったか、思いだせ、思いだせ…
そう言えばあの日の帰り、坂口はさっさと降りて助手席の窓越しに野本と石田と話してたな。
だから俺は枝を後部座席に隠せたんだ。俺がどうするかを予想してたのか?
でも、だとしたら何だ?枝は石田の実家から野本が持って行った。そして今は俺のカバンにある。
いや、そうだ、坂口のやつ石田の車を降りてから、急ぐからとか言ってさっさと家に走っていったよな。
あんな時間に?家の人が怒るとか言ってたけど、二十歳超えた社会人の大人にそんなこと言うか?
家に着いてすぐ、車に乗って、後を追ったんじゃないか。だとしたら──。
******
俺たちは葬儀の後すぐに解散した。俺は坂口の後を追った。坂口が車に乗り込もうとした直前で問い詰めた。
「お前さ、さっき何をした」
「えっ、なんのこと?」
「惚けるなよ。野本のポケットに入れたアレはなんだ?」
「え…何よそれ。…見間違えじゃない」
「お前さ、枝を折って小さくして、あの小袋に入れたんじゃないか」
「な、何バカなこと言ってるのよ。そんな訳…」
「別に責めてないぜ、野本は俺のカバンにこの枝を入れたんだ」
カバンから枝を取り出し、地面に放り投げる。
「えっ、そうなんだ…」
「なんだよ、反応薄いな。これ持ってたら死ぬんだぜ。それともお前、これが別のものだって知ってたんじゃないか?」
「そ…それは」
「だから別に責めてねえっての。お前、野本のこと恨んでるんだろ。俺が石田にしたのだって同じだよ、あいつに枝を押し付けて殺したのは俺だ」
「何よそれ、本気で言ってるの?」
「もちろんだ。別にいいじゃねえか。俺はあいつを殺したかっただけだ」
「あっさり言うのね…。じゃあお互い様ってことでいいかしら」
「やっぱりそうかよ。まあいいよ。お前、あの日の帰りに急いで帰っただろ。車で石田達を追いかけていったんじゃないか?」
「よく分かってるじゃない。そうね、石田くんが事故に遭った直後、私は彼の車を見つけて。すぐに枝を回収したのよ。
代わりにといっては何だけど、その辺に生えてる木の枝を折って放り込んでおいたわ。今そこに転がってるやつね」
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