野本祥平の話 その2
式の最中、俺は沢村を注意深く観察していた。
しめた、カバンを持ってるじゃないか。普段開けないような隙間にこの枝を隠せばいいじゃないか。
式の途中、お焼香に席を立つ時、その時がチャンスだ。
その機会はすぐに巡ってきた。先に立つのは沢村と坂口だ。俺はその一瞬の隙にやつのカバンに小枝を忍ばせる。慎重に、怪しまれないように、素早く。
俺は沢村のカバンの底に持ってきた枝を滑り込ませた。
よし、あとは時間が経つのを待つだけだ。
式が終わり、俺たちは葬儀場の前で話をした。
坂口は泣きそうな顔で俯きながら口を開いた。
「や、やっぱり、石田くんが呪いで死ぬなんておかしいよ」
「俺もそう思う。枝を持ってるのは俺だけだ。あの噂が本当なら真っ先に死ぬのは俺のはずだよ」
沢村が冷静に言う。
こいつ、いけしゃあしゃあと言いやがる。お前がした事は分かってるんだよ。
俺は沢村のカバンに目をやる。あのカバンの奥底に枝はある。
何を言ったって変わんねえんだよ。俺は、口元が緩みそうになるのを抑えた。
「ああ、確かにおかしいよな。お前、枝はそのまま持って帰ったんだろ?」
「ああ、もちろんだ。家にいけばみれるぜ、見ていくかい?」
「もう、やめてよ、石田くんが死んだっていうのに…」
坂口がまた泣きそうな顔をした。
「だから、やっぱり石田は偶然の事故だった、そうとしか考えられない。やり切れないけど、俺たちが罪悪感を感じる必要はないと思う」
こいつベラベラと。どの口が言ってんだよ。
「ああ、やっぱそうだよな。不幸な事故だったんだ。今は静かにあいつを弔ってやろうよ」
「そうね…私もそう思うことにするわ…」
ああ、それでいいんだよ。今はな。
リン…
何処かで鈴の音が聞こえた気がした。気になって周りを見回すが、音がしそうなものは何もない。
「野本くん、どうかしたの?」
「あ?いや、なんでもない。気のせいかな」
辺りでは葬儀場から出てくる人も多く、葬儀場で働く人が荷物を運び込んでいるところであった。珍しい音でもない、偶然だろう。そう思うことにした。
その日俺たちはそのまま解散することにした。
大丈夫、あとは時間の問題だ。
慌てる必要は何もない。ただあいつが死ぬのを待っていればいいんだ。これはあいつが始めたこたなんだ。当然の報いじゃないか。
俺は家に着いてからそんなことを考えていると、携帯が鳴った。
沢村からだった。
『もしもし、野本。なあ、ちょっと変なんだ…す、鈴の音が聞こえるんだよ』
笑いが込み上げてくる。我慢しなければ。
「マジかよ、おい、お前今どこにいるんだよ!」
『ああ、駅前の玉ビルの下だ、家にいた、鈴の音が止まらないんだ、逃げてきた。なあ、これヤバいよな。俺、死んじゃうのかよ。なんでだよ…俺…』
そうだよな、お前の中じゃあの枝は持ってないはずなんだろう。じゃあおかしいよな。
「そうか…、とにかくそっちに行くからさ、待っててくれよ」
『ああ、頼むよ。俺怖いんだ、早く来てくれよ』
「わかった、いいか、落ち着いて、そこを動くなよ」
そう言って電話を切った。
俺はゆっくりと、たっぷり息を吸い込み、心を落ち着けながら家を出た。
あいつのことは昔から大嫌いだった。
人を見下しやがって。クソが。
そんな奴の死に様が見れるんだ、こんなに嬉しいことはないよな。
ああ、早く着かないかな。
はやる気持ちを抑えながら車を走らせる。
リン…
ん?何か聞こえた気がする。
気のせいか。
駅前の玉ビルに着いた俺は沢村を探す。
「あれ、あいつ、どこ行ったんだよ」
リン…リン…
また何か聞こえた気がする。
しかし、興奮状態の俺には気にならなかった。
再び携帯が鳴った。
「おい、沢村、お前今どこにいるんだよ」
『あ、ああ。俺か。悪い悪い、もう大丈夫みたいだよ。なあ野本、お前さあ』
リン…リン……リン…リン……
『俺のことを殺そうとしたよな?』
その瞬間、頭上から降ってきた何かが野本にぶつかった。
「ブベガッ……」
な、何で俺が。
俺じゃねえだろ。おかしいだろ。
「えっ?…あ…あ…アガッ」
頭から血が流れてくる。意識が遠のく。
野本祥平は工事中の玉ビルの屋上から落ちてきた建材に身体ごと潰されて亡くなった。
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