最終話 プレゼントと最高に幸せな日々

「うわ~ぁ。本当に和室だ~ぁ。

凄い、こんなコテージ初めて。」


そう登華とうかは案内された部屋を見てテンションを上げる。


「では、ごゆっくりどうぞ。」


そう言って店員の女性は部屋を出る。


「おぉ。窓の外からさっき見た景色が見れるよ。幸壱こういち君。」


そう登華がテンションの高い声で幸壱を呼ぶ。


そんな登華とは反対に幸壱のテンションはとても低かった。


「も~。虫の1匹や2匹ぐらい何だって言うのよ。」


そう情けない彼氏の姿に登華は呆れる。


「1匹や2匹じゃねぇよ。

今日オレが見た虫の数は35匹だよ。」


そう幸壱が力のない声で言葉を返す。


「しっかり数えてたの?

意外と余裕あったのね。」


そう登華は少し驚く。


そんな登華の目に机の上に置かれた小さな最中もなかまる。


「あぁ~。これはあれだぁ!!

旅館あるあるの部屋の机の上に置かれた和菓子だ~ぁ。」


そう登華がテンション高く叫ぶ。


「では、早速お茶を作って一緒に食べますか。」


そう言って登華はお茶の粉が入ってるであろう小さな箱を開ける。


「おぉ。やっぱり、緑茶だ。

さすが旅館コテージですなぁ。

和室に和菓子に緑茶。和を分かっとりますなぁ。」


そう深く頷きながら登華は緑茶を作る。


自分の事を完全に忘れている彼女の様子に幸壱は1つ深いため息をこぼす。



「最中、美味しかったね。」


そう登華が明るい笑顔で幸壱に話しかける。


「そうだな。」


そう元気が戻った声で幸壱は答える。


「夕飯は19時からって言ってたよね。

今は17時だから、あと2時間ぐらいか。

どうする?さきに露天風呂味わっとく?」


そう登華が尋ねる。


「そうだな。ただ待ってるのも暇だしな。」


そう幸壱は答える。


そして2人は露天風呂に向かう。



「ふうぅ~。疲れた身体に風呂の温かさがしみるね~ぇ。」


そう幸壱は幸せそうな顔で露天風呂に入る。


そんな幸壱の目の前には美しい緑の世界が広がっていた。


「お風呂に入りながら、綺麗な景色を眺める。これは最高に贅沢な時間だなぁ。」


そう言って幸壱は幸せな時間をしっかりと味わう。


そんな幸せな時間を幸壱が楽しんでいると暖かいオレンジ色の夕日が出てきて緑の世界に違う味を加える。


「…いや~ぁ。これは凄いわ。」


そう幸壱は目の前に輝く世界に感動する。



露天風呂と夕飯を楽しんだ2人はのんぼりとくつろいでいた。


すると時刻は深夜の0時を回る。


「おぉ。幸壱君の誕生日だ。」


そう登華は明るい声をだすと自分のリュックから“ワインとグラス”を取り出す。


「そんな物、持ってきてたのか?」


そう幸壱が驚く。


「やっぱりお祝いと言えば、赤ワインかなと思って。」


そう言いながら登華が2つのグラスにワインをそそぐ。


「とは言っても、和室にワインは似合わないな。」


そう幸壱が和室を見渡しながら言う。


「まぁ、細かい事はいいじゃないですか。」


そう言って登華は赤ワインが入ったグラスを1つ幸壱に渡す。


「それでは幸壱君。24歳おめでとう。」


そう言って登華は幸壱が持っているグラスに自分のグラスを軽く当てる。


その後、2人はワインを1口飲む。


『うん。美味しくないな。』


そうお酒が苦手な2人は声をそろえる。



「はい、これ。」


そう言って登華は綺麗にラッピングされた四角い箱を幸壱に渡す。


「なに?これ?」


そう首を傾げながら幸壱は箱を受け取る。


「誕生日プレゼントだよ。」


そう登華が答える。


「誕生日プレゼント?

大人になってからそんな物、贈り合ってないだろ?」


そう幸壱が驚く。


「まぁね。私も幸壱もそこまで物欲ないからね。でもまぁ開けてみてよ。

プレゼントした理由が分かるから。」


そう言われて幸壱はラッピングを開ける。


プレゼントは“腕時計”だった。


「ほら、幸壱君言ってたでしょ?

神様の力で腕時計が壊れちゃったって。

だから調度いいかなって思って。」


そう登華が微笑む。


「ありがとう。大事にするよ。」


そう幸壱も微笑み返す。



「幸壱君は24歳をどんな年にしたい?」


そう綺麗な満月を見上げながら登華は幸壱に尋ねる。


「う~ん。特にこれって言うのはないかな。今が最高に幸せだからさ。

グチグチと文句を言いながら登華の我がままに付き合って、2人で楽しく笑い合っている…今が最高に幸せなんだ。

だから、願いがあるとすれば、今のこの日々が一生続く事かな。」


そう幸壱が答える。


そんな幸壱の願いを聞いて登華は微笑みをこぼす。


「へ~ぇ。我がままだって思ってたんだぁ。」


「そこかよ。」


そう幸壱がツッコム。


「嘘だよ~。私も最高に幸せだよ。

幸壱君と楽しく笑い合ってる、今の日々。」


そう登華が満面の笑みで答える。


その登華の笑顔に幸壱の心は持っていかれる。


少し赤くなった顔を幸壱は綺麗な満月に向ける。


「…綺麗だな。」


そう幸壱が呟く。


「そうだね。」


そう登華がいつもの明るい声で返事を返す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天界山の旅館コテージ 若福清 @7205

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ