第14話「外の世界の視線」
私たちの生活には、何かが少しずつ影を落とし始めていた。
それは日常の隙間にじわりと忍び込んできた、不安や焦燥、そして誰にも見せられない関係を持つことへの無意識な後ろめたさだった。
「外の世界の視線」
まなみと私は一緒に暮らすようになってから、自然にデートを楽しみ、キスを交わすのが日常の一部となっていた。
街を歩くとき、彼女がさりげなく私の手を握り、どこか誇らしげに微笑む姿が愛おしい。誰の目も気にせず、二人だけの時間が流れていく。
「リカさん、今日も一緒に帰ろう?」
と、まなみが小さな声で囁くたびに、胸が満たされる。何気ない仕草、重ねた指先の温もりが、私にとってはかけがえのない瞬間になっている。
その夜、私たちは新宿のひっそりとした路地裏で軽くキスを交わしていた。
まなみの肩に手を回し、静かに触れ合う唇の温もりに安らぎを感じていたそのとき、背後に視線を感じ、振り返ると、元彼の卓也が立っていた。
彼の目には驚愕と軽蔑が浮かび、私たちを凍りついたように見つめていた。
彼が信じられないものを見たというような顔で私を見ているその瞬間、私は言葉を失った。「リカ…お前、どういうことなんだよ…」卓也の低い声が、冷たく響いた。その声の震えには、怒りと失望が絡み合い、彼の目は私たちの関係を理解できないという思いで溢れていた。まなみは私の袖を掴み、恐れたように身を縮めたが、私もまたどう言い返していいかわからなかった。「卓也、これは…」言い訳しようとしたが、声が震え、すぐに言葉が途切れた。彼に説明する言葉などあるはずがなかった。卓也はその場に立ったまま、私とまなみを交互に見つめ、ため息をつくように、しかし冷たく問いかけた。「リカ、お前は本気で…こんな子供と、こんなことをしてるのか?それが…君の愛だって言うのか?」その問いが、心に鋭く突き刺さった。卓也の視線には、私の行動が道徳や常識を踏みにじっていると断罪するかのような冷たさがあった。「何も言えないのか?リカ、君には…倫理とか、そんなものがないのか?世間は君たちをどう見るか、考えたこともないのか?」卓也の一言一言が重く、私の胸に響く。
倫理、常識、世間。
彼の目には、まなみと私の関係が理屈に合わないものであり、理解できない異常な愛だと映っているのだろう。彼の鋭い視線がまなみの方に向けられると、彼女もその冷たい目に怯え、私の腕をさらに強く握りしめた。「リカ、君がどれだけ自分を傷つけてるか、わかってるのか?こんな若い子と一緒にいることで、君がどう思われるか、君の人生がどうなるかなんて…何も考えずにこんな関係を持っているのか?」彼の言葉に反論できない自分がいた。卓也の目は、まるで私を道に迷った愚か者と見るようだった。その目に映る自分が哀れで、情けなく、惨めに感じた。
まなみとの関係が偏見の対象となり、世間に受け入れられるものではないことを、痛いほどに実感していた。「卓也、あなたには…わからないよ。これは…ただの遊びじゃない」やっとの思いで口にした言葉だったが、卓也は苦笑を浮かべ、私を見つめた。「リカ、それが本気なら…もっとおかしいだろう?自分がどう見られているか、自分のしていることがどれだけ異常か、君にだってわかっているだろう?」卓也の冷たく断罪するような言葉が、私の心に深く突き刺さる。愛しているはずのまなみとの関係が、私を苦しめるものになりつつあることに、嫌でも気づかされていた。
卓也が去った後、まなみは何も言わず、私の隣に黙って立っていた。彼の言葉が私の心に深く響き、まなみを抱きしめることすらできなかった。
彼女の愛がどれほど純粋であるかを知っているのに、私にはそれを誇る勇気がなかった。ふとまなみが顔を上げ、静かな声で囁いた。「リカさん…私たち、こんなふうに誰かに見られたら、やっぱりダメなんですか?」まなみの無邪気な問いに、私の胸はさらに締めつけられた。彼女は私を愛している。ただ真っ直ぐに。それだけなのに、私はその愛を堂々と受け入れることができない。世間や倫理が私を縛りつけ、彼女との関係を堂々と認めることを妨げているのだ。私たちの間には、いつの間にか見えない壁ができつつあった。
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