第3話「警戒と微かな安堵」
部屋に戻り、なんとなく一息ついて振り返ると、連れてきた少女が不安そうに立っていた。無理もない。
彼女にしてみれば、いきなり知らない大人の家に来るなんて怪しさしかないだろう。
「まあ、とりあえず座ったら?そんなに警戒しなくて大丈夫だから」
と言いながら、私はソファを指差した。
少女はしぶしぶ腰を下ろしたが、目は相変わらず鋭く、こちらを警戒している。
気まずい沈黙が続く。
彼女がなかなか打ち解けないのも当然か。
見知らぬ私と狭い部屋に二人きりでいること自体、居心地が悪いだろう。
「…まあ、何もないけど、お茶くらいなら出せるけど?」
と言ってみたが、少女は無言で首を振るだけだった。
夜も更け、さすがに眠気が押し寄せてくる。
ソファの片隅で座ったまま目を閉じている少女を見て、ふと気が緩んだのか、自分でも気付かないうちにポツリと話し始めていた。
「私もさ、あんまり人のこと言えないんだよね。家族っていうか、普通の家庭で育ってないし」
少女は一瞬こちらに目を向けたが、すぐにそっぽを向いたまま聞いているのかどうかもわからない。
けど、なんだかこの夜の静けさに背中を押されるように、私は続けた。
「…小さい頃から家族の愛ってものがよく分からなくてさ。
普通の家庭ってどういうものなのかも分からなかった。私にとって、家はただの場所って感じで、温かさなんて感じたことなかったんだよね」
少女は特に反応を見せず、ただ視線を床に向けたままだ。
「だから、真実の愛とか、家族の温かさとか、どこかにあるんじゃないかって探してるようなもんかな。結局、見つかってないけど」
こんなことを語るなんて自分でも意外だった。
目の前の彼女があまりに何も話さないものだから、逆に自分の心の内を話してしまったのかもしれない。
少女はやはり反応を見せず、黙って座っている。
「まあ、こんな話されても困るよね」と苦笑いして話を終えようとしたその時、少女がぽつりと口を開いた。
「…まなみ」
「え?」私は意外な一言に思わず聞き返した。
「私の名前、まなみっていうの」
彼女はそう言うと、そっけなくまた目を伏せた。
けれど、それだけでもさっきより少し距離が縮まった気がして、なんだかホッとした。
「まなみか…いい名前だね、私はリカ。よろしくね」
彼女は無表情のまま小さくうなずいただけだった。
まだ遠いけど、少しだけ、心の奥に触れた気がする。
その夜、わずかに縮まった距離を感じながら、静かに眠りについた。
その夜、まなみは私の部屋の隅で小さく丸まって寝ていた。
寝息が浅く、どこか不安げな様子だった。
私もつい彼女が気になって、うつらうつらとしながら様子を見ていたけど、夜明け前にはいつの間にか眠ってしまった。
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