第2話「歌舞伎町の出会い」
私が「七海」から「リカ」に戻り
仕事を終え、新宿の街を帰っていた時
TOHOシネマズの横で若者たちがたむろしているのが目に入った。
いつもの光景。
沢山の少年、少女がいるなかで、
ひとりだけ、妙に気になる子がいた。
地面に座り込んで、どこを見ているのか分からない
虚ろな目で空を見つめている。
気になって少し近づくと、手にはくしゃくしゃの風邪薬のシートが何枚も握られているのが見えた。
まさかと思いながら、軽い感じで声をかけてみる。
「ねえ、大丈夫?」
その子は一瞬こちらを見たが、すぐに視線を逸らしてしまった。
無視されるかなと思ったけど、どうも様子が普通じゃない。
やれやれ、関わらない方が良さそうなのに、なんだか放っておけない。
「あー、もしかして、それ一気に飲んじゃおうとしてる?」
その言葉に、彼女は小さく肩を震わせた。
効いたみたいだ。
無関係を装うのも難しいなと思いながら、さらに声をかける。
「まあ、確かに誰にも関係ないかもね。でもさ、ここで面倒なことされると困るんだよね、色々」
返事はない。でも、どこか行き場がないのが
ありありと分かる。
やれやれと思いながら、ふと、こう言ってみた。
「それよりさ、行くとこないならうちに来る?」
彼女は一瞬驚いたように顔を上げた。
少し不審な顔をされたけど、そりゃそうだろう。
いきなり知らない大人が声をかけるなんて、怪しすぎる。
でも、不安定な様子も気になるし、放っておくのも後味が悪い。
こっちだって、ただの通りすがりである以上、それ以上の関わりなんてないんだけど。
「別に深い意味はないから。見ての通り、なんとなくほっとけないって感じ」
少し黙ってから、彼女はようやく
「…うん」と小さくうなずいた。
驚きつつも、少しホッとした。
とりあえず、今夜だけでも安心できる場所を提供できればいい。
「よし、じゃあ決まり。さ、行こうか」
手を差し出して彼女を立たせ、歩き出す。
名前も知らないけど、まあ今はどうでもいいか。
私自身、誰かを助けるのに大した理由なんて必要ないと思っている。
ただ、新宿の夜の片隅で放り出されているこの子が、なんとなく昔の自分に似ている気がしただけだ。
こんな出会いが何になるかなんて分からないけど、まあ、気が向いたらしばらく様子を見てやってもいい。
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