第21話 謎
車椅子に乗っている白髪の男。不健康な暮らしを送っているのか、全体的に痩せ細っていて、目の下に濃い隈がある。容姿は少年のように幼いが、純粋無垢とは程遠い雰囲気を醸し出している。
「初めまして、相馬響。僕の名前はルイス・フロイト。今はこの学校の地下を拠点として生活している」
ルイスは簡単な自己紹介を交えながら、車椅子の手すりにあるレバーを操作して、俺の方へゆっくりと近付いてくる。俺の目の前で止まると、ルイスは手袋を着けた右手を差し伸ばしてきた。
差し伸ばされた手に応じて、ルイスの右手を握った瞬間、握った手に刹那の痛みが走っていった。手を離して確認すると、目視出来ない小さな傷が手の平にいくつも出来ており、そこから血が流れ出た痕跡がある。ルイスの右手を見てみると、手袋の手の平側に、突出した無数の小さな針が俺の血で赤く染まっていた。
何故こんな事をしたのか困惑していると、ルイスは机の上にある箱型の機材に手袋を当てた。しばらくすると、その箱型の機材の横側が開き、俺の血液が小分けされた小瓶が並べられていた。
「彼への用は済んだ。ルミナス、送り返してあげて」
「かしこまりました」
「ちょ、ちょっと待てよ! いきなり血を採っておいて、何に使うかも言わずに帰すのかよ!?」
「何に使うかは僕にもまだ分からない。一つだけ言える事は、君の血液は調べる価値があるという事だけだ」
ルイスは俺の血液が入った小瓶を容器の中に保管すると、容器を膝の上に置いて、俺から離れていった。当然に俺の気は済まず、別の机に移動したルイスを追いかけていった。
「なぁ、隠さず言ってくれよ。俺の血を何に使う気なんだ?」
「自身の血液の効能に覚えが?」
「そんな事知るか。俺の血を採りたいなら、そう言ってくれれば好きなだけやったさ。お前が小細工を駆使して、俺の血を盗んだのが気に喰わないんだ」
「つまり君は、僕が君の血液を悪用するのではないのかと疑ってるわけだね? その答えはノーだ。ルミナス! 何をボサッとしているんだ。早く彼をお帰ししろ」
「フフ。申し訳ありません。ルイス様が人と話されているのは随分と久しいもので。つい見守っていました」
「見守るくらいなら働いてくれ。さぁ、さっさとコイツを帰せ」
まるでハエのように手で払われ、俺はルミナスと共に部屋を出た。正直言って、全然納得していない。初対面の相手の血液を採る奴をどう信用すればいいと言うんだ。
エレベーターで地上に戻るまでの間、少しだけ時間がある。俺は真っ直ぐと扉の方を向いているルミナスに、ルイスについて、そしてルイスとの関係を聞いてみる事にした。
「なぁ。あいつ、一体何なんだ? あんたとの関係は?」
「すみません。ルイス様に関する質問の回答は許可されていないんです。ただ、後者の質問に関しては、私の服装と接し方からお察しいただけるかと」
服装と接し方。メイド服を着て、ルイスを様付けで呼んでいる。見たままの通りってわけか。それを踏まえると、ルイスは金持ちか。別に金持ちが嫌いってわけじゃないが、考えが合わなそうで苦手だ。
そもそも、学校の地下にあんな部屋を作るなんて、学校側は承知しているのだろうか。というか、ルイスもルミナスも、本当にこの学校の生徒なのだろうか。二人共十代のような容姿だが、雰囲気が成熟している。
浮かび上がる疑問が何一つ晴れないまま、エレベーターの扉が開いた。ルミナスは俺がエレベーターから出ていくのを見送ると、階層ボタンを押して地下に戻ろうとする。
「後日、ルイス様から電話が入るはずです。あまり乗り気にはならないと思いますが、出ていただけると幸いです。それでは、失礼しました」
扉が完全に閉まるまで、ルミナスは俺に深々とお辞儀していた。無礼なのか、丁寧なのか。判断に難しい二人だった。
「……そういえば、九条はどうしたんだろう?」
確かアイツは、五階の方へ行ったはずだ。分かれてから時間はそれ程経っていないから、まだ五階にいるかもしれない。
俺が階段の方へ向かおうとした矢先、九条が四階へ降りてきた。ガッカリとしたような表情を見るに、追いかけていた青白い足の正体は掴めなかったのだろう。まぁ、その正体はルミナスだったんだが。
「……そっちいた?」
「いいや。もう帰ろう。これ以上捜しても、見つけられる気がしない」
「幽霊にも打撃が通用するか試したかったのにさ……まぁ、ちょっとは楽しかったかな」
それから俺達は、来た時と同じ窓から外に出て、家に帰った。九条と話しながら帰っている途中、あの青白い足に違和感を持った。四階でルミナスと出会った俺は、あの青白い足がルミナスだと思っていた。
だが、ルミナスが着ているメイド服はロングスカートだ。あの長いスカートでは、足どころか、靴すら見えない。
では、あの青白い足は、一体何だったんだ?
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