第20話 罠
階段上で見かけた青白い肌の足が幽霊か人間か。その答えを知るべく、俺達は青白い足を追いかけた。この建物は五階まで。教室の数は多いが、施錠されている事もあって、隠れられる場所は絞りやすい。俺達は二手に分かれ、九条は五階、俺が四階を担当する事になった。
気付かれないように懐中電灯の明かりを消すと、自分の手さえ見えなくなった。手探りで壁を見つけ、壁に触れながら歩いていく。その途中で扉を見つけ、開くかどうか確認したが、やはり鍵は掛かっている。
自分の手さえ見えないこの暗闇の中、どうやって見つけるかは考えていない。幽霊なら普通の人間とは異なる気配があるはずという期待だけ。だから、気配を感じ取る事は途絶えてはいけない。
しばらく探し回っていると、奥の方からペタペタという足音が聴こえた。足音から察するに、足音の主は靴を履いていない。
足音の主はきっと青白い足だ。俺は音が聴こえた方へ歩いていった。寒気を感じる事や、肌が痺れる感覚も無いまま、前へ前へと進んでいく。
すると、通り過ぎた場所にあった教室の扉が開く音が聴こえた。相変わらず気配は感じ取れなかったが、背中を刺すような視線を感じた。その視線の圧は、次第に大きくなっていく。
俺の方へ近付いてきている。足音も立てず、俺に真っ直ぐ向かってきている。得体の知れない存在が近付いてきている恐怖感に、懐中電灯を握る手に力が入ってしまう。こんなに怖いと思ったのは久しぶりだ。嬉しさすら覚えてしまう。
背中に感じる視線の圧が痛みさえ覚える頃、俺は意を決して振り返り、目の前にいるであろうソレに懐中電灯で照らし出した。
照らし出されたのは、白過ぎて銀色ともとれる肌をした女の顔だった。光に照らされても尚、瞬きする気配なく、見開かれた青い瞳が真っ直ぐ俺を見つめている。
「うぉおぉぉぉ、お?」
一歩後ろへ下がり、改めて今度は女の全身を照らし出すように懐中電灯の明かりを当てた。俺と同じくらいの背の高さと、銀色の短い髪、長いスカートのメイド服。
彼女は、あの花畑でキッチンカーをやっていたルミナスだ。
「……なんでここにいるの?」
「質問をそのままお返しします。相馬様はどうして夜間の学校にいらっしゃるのですか?」
「え? いや、俺はホラー番組を観てて、全然怖くなかったから自分で体験しに行こうと思って来ました。三階に開いたままの窓があったから、そこから侵入した次第です」
「ああ、そうですか。相馬様の事だったんですね」
「え? ちょっと意味が―――」
「ご案内しますね」
彼女は俺の手を優しく握ると、可愛らしい笑顔を向けてきた。何処へ連れて行かれるかは分からないが、美人に可愛い笑顔を向けられたんじゃ、大人しく従うしかないな。
冷たく、妙に硬い彼女の手の感触を堪能していると、いつの間にか俺達はエレベーターに乗り込んでいた。彼女はエレベーターの階数ボタンを二、一、四の順番で押すと、エレベーターが動き出した。ボタンが三つ点灯しているが、果たしてどの階層に行くのだろう。
「これ、どの階に行くんだ?」
「存在しない場所に降りていきます」
「存在しない場所?」
玄関のインターホンのような音が鳴ると、ゆっくりとエレベーターの扉が開いた。エレベーターの先にある道は、さっきまでの暗闇に包まれていた階とは真逆に、明かりに包まれた白い廊下が真っ直ぐ続いていた。
明らかに異様な感じがする。その瞬間、今までの出来事が全て作為があるように思えた。施錠されているはずの窓が開いていたり、その窓に侵入出来る木が近くにあった。階段上で見かけた青白い足も、今考えてみれば、四階に誘導するように現れたとしか思えない。
つまり、俺はまた罠に引っかかった。上等だ。ここまで来たからには、俺を罠に嵌めた奴の顔を拝まなきゃ気が済まない。
白い廊下を進んでいき、その奥に存在しているドアの先へと入った。記録ノートで埋め尽くされた棚と、見た事も無い機材の数々。奥には、床や机の上に大量のモニターが置いてあり、その前で車椅子に座った白髪の男が俺を待ち構えていた。
「やぁ、初めまして。待っていたよ、相馬響」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます