冷たい風の声

もう1度会えたのは、その日から6年が経過していました。僕が病院に入院すると、3つ隣の個室がその彼女の部屋でした。彼女の短い髪にイヤリングはなく、それに驚いた僕の第1声は「ミユキさんあの金魚のイヤリングは」でした。ミユキは僕の名前も知りませんでした。「僕はミユキさんを街で見かけた事がある」挨拶もせずに続けました。「ギンガムチェックの服はもう着ないのかい?」「ギンガムチェックって言い方は古いのかな」まくしたてる僕に怒ることもなくミユキは言いました。「話しかけていただいてありがとうございます」夕方の散歩の時間でした。話しかけるタイミングは悪くはなかったのに、会話は続きませんでした。このあとどちらも黙ったままだったので覚えてないのですが、ミユキの声が優しくて丁寧だったので驚いたのです。ミユキは優しくて丁寧で他人行儀で、冬の風を纏った透き通る声でした。

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