『夕暮れの海』 『オーブントースター』 『見つめる』
「夕暮れの海」「オーブントースター」「見つめる」
木造アパートの一室。開け放たれた窓から潮風が食卓に並ぶように磯の香りを運ぶ。テーブルを挟んで僕たちは向かい合っていた。対面に座る彼女は薄幸そうな顔つきで静かにため息を吐く。お互いの視線はテーブルの上に置かれた離婚届と記された紙に集中している。
彼女は僕がこの紙にサインすることを待っている。それは僕たちの結婚生活を終わりにするために必要な手順。いきなり前触れもなく訪れた終わりではない。しっかり前兆があった上での訪れた終わり。
最初は会う時間が短くなって、会話が少なくなって、連絡が途切れ途切れになって。お互いが二人での時間よりも個人での時間を優先した結果。距離が置かれた僕たちの間に冷却期間というものが存在して、冷め切ってしまったから。僕も彼女も愛を伝える習慣や時間が無くなって、穴埋めするように代わりを見つけてそこで愛を育んだせいでもある。
結婚生活三年。僕たちの愛は安っぽいラブソングに置き換えられるような一過性の物に過ぎなかった。
そして僕は彼女と過ごした時間に終止符を打つように印鑑を押した。
彼女がいなくなった空間でオーブントースターで食パンを焼いた。
食パンが焼き上がった時に鳴らされた軽快な音は、一人になった僕を必死に笑わそうとする、ピエロの大道芸のひとつに思えた。
窓から夕暮れの海が僕を見つめる。今まで彼女と過ごしたこの部屋をオレンジ色の光が占める。どうしてか今頃になって空いてしまった穴に気づいて胸が苦しくなった。
圧倒的駄作シリーズ @edamame050
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