[4]答え合わせの朝
翌日、日が高く昇ってからリュヴァルトの元に食事が運ばれた。運んできたのは使用人を伴ったアネッサだった。
「よく眠れた? ……って、あんな話のあとじゃさすがに寝られないか」
あまり顔色の良くなってない青年を目の当たりにしてアネッサは自嘲するように溜息をついた。リュヴァルトは穏やかに微笑んだ。
「肌の色は急激に力を使った反動だからそれほど心配に思う必要はないんだ。一週間もすれば気にならない程度には戻るんじゃないかな」
「……そう」
「アンこそ、あのあと怒られなかったかい?」
そこに昨夜感じた悲愴感は微塵もない。アネッサは同じく否を告げ、微苦笑を返した。
部屋の中央に設えられた丸テーブルに食事の支度が整うとアネッサは使用人を下がらせた。そうしてリュヴァルトとともに席に着いた。卓上に並んだ食事は二人分。青年が向ける不思議そうな目をアネッサはさらっと受け流した。
「あんたにはいろいろ話があるの。この方が手っ取り早いでしょ」
ポタージュを上品に口にし、青年にも手をつけるよう勧めた。もちろんリュヴァルトに断る理由などあるはずもなく、ふたりは静かに食事をとった。
チーズ入りのオムレツを二口三口食べたところで、
「あの、話って?」
リュヴァルトの方から切り出した。パンを小さくちぎって口に運びかけていたアネッサはそれをそのまま皿に戻した。視線を下ろしたまま躊躇いがちに口を開く。
「――あんた、本当に
精霊が使うような不思議な技を使うことができるという雪花人。大多数の人間にとってはいるかどうかもわからない精霊というものを彼らは実際に見ることができ、意思疎通もできるという。
知ったとき、幼いアネッサはただただ感動したものだった。精霊と話ができたらどんなに素敵だろう、なれるものなら雪花人になってみたい。羨ましいとさえ思ったものだ。
だがその後彼らの負の面を知らされた少女はえも言われぬ悲しみに沈んだ。雪花人の不思議な技は彼らの生命力と引き換えに具現するものだという。それゆえ早世する者がほとんどなのだと。雪花人という名の由来は、力を使うにつれ身体中の色素が抜け、雪のように白くなるところから来ているらしい。
リュヴァルトはもう否定しなかった。首を傾げて微苦笑を浮かべた。
「お兄さんは何人も会ってるって言ってたね?」
「兄さんは研究室の方に詰めてるからね、雪花人は多分そっち。ここには来ないよ」
「ああ、天文観測塔、だっけ? ……実はさ、あの塔を目指してきたんだ俺」
リトの街で逃亡を手引きしてくれた男が「塔を目指せ」と言った。なんの塔かは知らなかったがとにかくそこまで行けば大丈夫だからと。
当初は行く先の目印として提示されただけなのか、本当に塔の中に駆けこみ助けを求めろということなのか、リュヴァルトにはいまいち判断がつかなかった。判断するだけの余裕もなかった。とにかく塔の元まで行くのが最優先。判断材料を増やしてから考えても遅くないだろう。そう思い、無我夢中で急勾配をよじ登ったのだ。
だが現状を踏まえ振り返ってみると、単に方角の都合で示されたように思えた。――リトの男が本心でリュヴァルトを逃がしたいと思っていたならばの話である。
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