かまってちょーだい

鈴木 正秋

 

「やばい。膝やったかもしれない」


 と、春岡先輩が騒ぐと、上司や同僚たちの視線が彼に集まる。そこからは春岡先輩の独壇場だ。

 片足を引きずって大袈裟に痛みを表現したり、杖を使って歩くのが不自由そうにしていたり、「病院行こうかな。絶対行ったほうがいいよな」などと語ったりしていた。それを見て、上司や先輩たちはまた始まったという表情を浮かべ、「はいはい」と春岡先輩を宥める。



 とんだ茶番だ。



三十歳後半を迎え、息子までいる大人がやるような行為ではない。小学生が周りの気を惹きたくて、大それたことを言う。その行為に等しい。

子どもの時に満たされなかった大人が、承認欲求を満たすためだけにこんなことをするのだろう。


 あれ。

 これ世の中の核心を突いていないだろうか。

 早速スマホを取り出して、匿名のアカウントで今の俺の考えを投稿する。少し長文になってしまったが、仕方がない。このまま投稿してしまおう。万バズ間違いないだろう。

 俺は投稿ボタンを押した。


 数分後。

 通知が一件も届いていない。なんで俺の投稿を見ていない。

 俺の投稿はこんなにも冴えているのに。


 そんな時、一つの通知が届いた。俺の投稿に返信が来たようだ。俺は画面上に出てきたバナーに触れると、投稿した画面を開き、返信内容を確認した。



『かまってくれてありがとう』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かまってちょーだい 鈴木 正秋 @_masaaki_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説